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 ドイツのDeepL(ディープエル)が提供する機械翻訳サービス「DeepL」は、翻訳精度が高いとして日本でも人気が高まっている。ディープエルのJaroslaw Kutylowski(ヤロスワフ・クテロフスキー)CEO(最高経営責任者)は「日本は当社にとってドイツに次ぐ世界第2位の市場だ」と話す。米Google(グーグル)のような巨大IT企業と、スタートアップがどう戦うのか。クテロフスキーCEOに聞いた。

ドイツDeepL(ディープエル)のJaroslaw Kutylowski(ヤロスワフ・クテロフスキー)CEO(最高経営責任者)
ドイツDeepL(ディープエル)のJaroslaw Kutylowski(ヤロスワフ・クテロフスキー)CEO(最高経営責任者)
(写真:日経クロステック)
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 2017年に始まったDeepLは27カ国語に対応した翻訳サービスだ。テキストを翻訳するだけでなく、WordやPowerPoint、PDFなどのファイルは元のレイアウトを保ったまま文章だけ翻訳するのが特徴だ。最大5000文字までを翻訳できる無料版に加えて、月額1200円、3800円、7500円の有料版を提供するほか、DeepLの翻訳機能をアプリケーションに組み込めるDeepL API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)をソフトウエア開発者向けに提供している。

日本市場はドイツに次ぐ世界第2位

 クテロフスキーCEOは日経クロステックの取材に対して、同社が法人向け市場に力を入れていることや、日本市場が同社にとって母国のドイツに次ぐ世界で2番目に大きな市場であることなどを明かした。日本のソースネクストが販売する通訳機である「ポケトーク」も、翻訳エンジンにDeepLを使っていることで知られる。

 クテロフスキーCEOは自社で実施したユーザーテストで、DeepLによる翻訳結果が、グーグルや米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)、米Microsoft(マイクロソフト)といった巨大IT企業の翻訳エンジンによる結果に比べて好ましい結果を得たと主張する。DeepLは翻訳エンジンにディープラーニング(深層学習)を使っているとするが、機械学習モデルの詳細などについては明らかにしていない。

パブリッククラウドは使わず、北欧で自社データセンターを運営

 DeepLの翻訳精度が高い理由の1つとして考えられるのは、機械翻訳の推論処理により多くの計算パワーを投じていることだ。クテロフスキーCEOは競合と比べて自社が消費している計算パワーが大きいかどうかは不明だとしたが、一般論として「計算コストを低く抑えると、翻訳精度も低くなる」(クテロフスキーCEO)と指摘。そのうえで、同社が推論処理に必要となる膨大な計算パワーを賄うため、AWSなどのパブリッククラウドは使用せず、自社データセンターをアイスランド、スウェーデン、フィンランドで運営して、GPU搭載サーバーなどを大量に稼働していることを明かした。

 北欧に構えるデータセンターは「非常に巨大」(クテロフスキーCEO)であり、冷涼な気候ゆえにサーバー冷却コストなどを節約できることや、水力発電など再生可能エネルギーを調達しやすいことなどを理由に、立地として北欧を選んだとする。

 DeepLは現在、テキストデータの翻訳にのみ対応しているが、クテロフスキーCEOは「会社として、個人として音声に対して強い興味を持っている」「音声翻訳については研究を進めているが、まだ優れた製品を提供できるだけの技術がない」と述べ、将来的に音声翻訳機能を提供する意向があることを示した。「我々はほど良い製品ではなく、圧倒的に優れた製品だけを提供する」(クテロフスキーCEO)とのスタンスであるため、音声翻訳機能の提供時期などについては明言しなかった。

 続けて、クテロフスキーCEOによるインタビュー全文を見ていこう。

DeepLの日本事業の現況は。

 日本市場は当社にとって、最も急速に成長している市場の1つであり、ドイツに次いで世界で2番目に大きな市場です。ですから我々は他の市場に先んじて日本にDeepLの支社(チーム)を置きました。チームは日本市場を担当し、顧客サポートを通じて日本市場でのさらなる成長に貢献しています。

DeepLの本国であるドイツに次いで、日本市場の売上高が大きい理由は。

 日本にはグローバル企業が多く、それだけ多くの人が外国語の翻訳を必要としているからでしょう。また日本企業は最新のテクノロジーに対してオープンであり、他国に比べてAI(人工知能)ベースの技術を気に入って使ってくれる傾向があるようです。

DeepLはコンシューマー市場とエンタープライズ市場、どちらに重点を置いていますか。

 私たちの戦略は、ビジネス市場で多くのヘビーユーザーを獲得することです。そのために古典的な「ボトムアップ戦略」を採用しています。まずはDeepLのことを気に入ってくれる個人ユーザーをなるべく多く獲得し、そうした個人ユーザーが勤め先を説得することで、法人向けプランの契約を増やそうと考えています。ですので当社は消費者向けにサービスを提供しているように見えますが、基本的には企業をターゲットにしています。