トヨタ自動車にとって手痛い失敗となった。同社が2022年6月と10月の2度にわたって国土交通省に届け出たSUV(多目的スポーツ車)タイプの電気自動車(EV)「bZ4X」のリコールのことである(図1)。締結部分に品質不具合があり、タイヤが脱落する恐れがあるという「重大な欠陥」が見つかったのだ(図2)。万が一、走行中に脱輪することがあれば運転者だけではなく、周囲にいる人間にも危害を及ぼす可能性がある。トヨタ自動車は「安心・安全」を何よりも優先してクルマづくりを進めてきた。そのイメージを傷つけかねないミスである。
それだけではない。bZ4Xはトヨタ自動車にとって「EVにも本気」(同社豊田章男社長)という姿勢を形にして世間に大々的にアピールするためのクルマだった。事実ではないと同社は懸命に訴え続けているが、世間にはいまだに「トヨタ自動車はEVで後れを取っている」というイメージが根強く残っている。bZ4Xは、同社が今後続々と新車を市場投入するEV「bZ」シリーズの第1弾だ。世間に流布する誤ったイメージを払拭するための大切なクルマで、同社はつまずいてしまったというわけである。
異例のメディア対応と時間
事の重大さはトヨタ自動車も痛感していたようだ。2022年10月6日、トヨタ自動車はこのリコールの原因と改善策をメディアに説明した。自動車メーカーがリコールの詳細をメディアに明らかにするのは珍しい。通常はその概要を国交省に届け出る程度だ。例えば今回のリコール(2度目)では、次のような文面を同省に届け出ている。
「ディスクホイール(ホイール)取り付け部において、ホイールの加工およびハブボルトの仕様が不適切なため、ハブボルトの締結力が車両の走行性能に対して不足し、連続した急加速や急制動の繰り返しなどで、当該ボルトが緩むことがある。そのため、そのままの状態で走行を続けると異音が発生し、最悪の場合、タイヤが脱落する恐れがある」
このように、概要(品質不具合の現象)は分かるものの、設計もしくは製造に関して技術的にどのような原因で欠陥が生じたのかは説明されていない。
今回のリコールでは、最初に国交省にリコールを届け出て(2022年6月23日)から改善策を見いだす(同年10月6日)までに3カ月以上かかっている。この期間の長さも異例のことだ。通常、自動車メーカーは改善策を伴って同省にリコールを届け出る。だが、トヨタ自動車は今回のリコールにおいて、1度目の届け出では原因が不明であるとの理由で改善策を未定としていた。原因の究明と改善策の評価に時間がかかったのである。
トヨタ自動車は、量産レベルで品質をきちんと保証できるように評価したことはもちろん、設計仕様の段階に遡って確認したと説明した。リコールは欠陥に気づいてから遅くとも1カ月以内に改善策まで導き出すのが「常識」とされている。急がないと損失が拡大する。時間が長引くほど市場回収すべき製品が増えたり、工場の稼働停止期間が長くなったりするからである。それでもここまで時間をかけたことから、同社が今回のリコール対応にいかに慎重を期したかが分かる。
大きな「設計の変更点」
実際、トヨタ自動車は再発を防ぐためにじっくりと時間を費やす必要があったと考えるのが妥当だ。なぜなら、このホイール締結は同社にとって大きな「設計の変更点」だったからだ。
トヨタ自動車は従来、ホイール締結にスタッドボルト(植え込みボルト、もしくはハブの裏側から通したボルト)とナットを使ってきた(以下、ナット締結)。車体側に付いたハブにスタッドボルトを固定し、そのスタッドボルトにホイール(の穴)を通してからナットで締め付ける方式だ。これをbZ4Xではハブボルト締結に切り替えた(図3)。
ハブボルト締結は、車体側の部品であるハブにめねじを切り、ホイールの穴を介してそのめねじにハブボルトをねじ込むことでホイールを固定する方式だ。bZ4X では、1つのハブに対して5本のハブボルトを締結に使っている。
このハブボルト締結をトヨタ自動車は高級車「レクサス」の「IS」および「NX」で先行して採用し、bZ4Xの市場投入後は「RX」と、レクサスEV専用車である「RZ」でも使用するとみられる(図4)。つまり、今後も継続的に使おうと同社が考えているホイール締結なのだ。だからこそ、真因(問題を引き起こした本当の原因)の究明と改善策の確立に時間をかけなければならなかったのである。
トヨタ自動車がハブボルト締結に設計変更したのは、一言で言えば走行性能を高めるためだ。クルマの操舵(そうだ)性や走行性を高める効果があると同社は説明する。これには締結力が増して高剛性化でき、ばね下質量が軽減するという理由の他に、ハブとホイールの圧着面積が増すという大きな理由がある*1。
それは図示すると分かりやすい。