全2759文字
PR

 治療効果に応じて費用を支払う「成果報酬型」のリハビリテーション施設が大阪と東京に登場した。大阪大学発スタートアップのmediVR(大阪府豊中市)が運営しており、同社が開発したVR(仮想現実)技術によるリハビリ用医療機器「mediVRカグラ」を使う。「業界の常識を覆したい」(mediVR社長の原正彦氏)という同社が成果報酬型に取り組む背景と狙いを探る。

従来は治療時間に応じて費用が発生

 脳梗塞や脊髄損傷の発症後など、手足のまひが残りリハビリが必要になる場面は多い。リハビリでは一部を除き、治療の効果にかかわらず実施された治療内容に対して患者が対価を支払うのが一般的だ。特に実施された時間をベースに金額が決まる。これに対して今回始めた成果報酬型のリハビリは、治療の結果にコミットし、それに応じて費用が発生する仕組みである(図1)。

図1 mediVRが始めた成果報酬型の自費リハビリ
図1 mediVRが始めた成果報酬型の自費リハビリ
これまでのリハビリは時間に応じて対価を支払う仕組みが一般的だった。mediVRは、患者ごとに決めた目標の達成状況に応じて費用を支払う仕組みを導入した。同社が開設したセンターでは、自社で開発したリハビリ用医療機器「mediVRカグラ」を使ったリハビリを実施する。(出所:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 成果報酬型のリハビリを始めた理由についてmediVRの原氏は、「もし自分が患者で、時間やお金をかけてリハビリの効果が出なかったら嫌だと思う。患者の選択肢を増やしたかった」と話す。原氏はもともと循環器内科医で、脳梗塞や脳出血後の後遺症に苦しむ患者も診てきた。その中で、新しいリハビリの重要性を感じてmediVRカグラの開発に至った。

 成果報酬型であれば、患者は安心してリハビリに取り組める。そこでmediVRは2021年11月に成果報酬型の自費リハビリセンターを大阪府豊中市に開設。さらに2022年10月20日、施術室などを増やして規模を拡大した2拠点目を東京都中央区でスタートさせ、業界では珍しい事業を本格的に始めた。

 自由診療のリハビリであれば、成果に対する費用を設定することも可能だ。しかし、事業者側から見ると既存のリハビリ技術では治せない患者も多数おり、そうした料金設定を掲げるのは難しい。その意味で、成果報酬型のリハビリは「業界の常識を打ち破るもの」(原氏)だという。

VRを使って治療の効果を高める

 mediVRが成果報酬型のリハビリ施設を立ち上げられたのは、「mediVRカグラによるリハビリ成果に実績があり自信がある」(原氏)ためだ。2022年10月時点で全国47の大学病院やデイケア施設などがmediVRカグラを導入しており、他では回復の見込みがないと言われた患者に対して効果を出す事例を積み重ねてきた。

 mediVRカグラは基本的に、椅子に座った状態で使用する。患者は、VR空間内に表示する対象に向かって手を伸ばして触れる動作を左右交互に繰り返す。それにより、姿勢バランスや重心移動のコツをつかむ。また、VR空間内に表示する対象の位置や動く速度を変化させ、それに対応しながら実際に体を動かすことで、脳内で複数の課題を同時に処理する能力を鍛えられるという(図2)。

図2 「mediVRカグラ」によるリハビリ風景
図2 「mediVRカグラ」によるリハビリ風景
利用者にVR空間上の狙った位置に手を伸ばす動作を、左右交互に繰り返してもらう。(出所:日経クロステック)
[画像のクリックで拡大表示]

 例えば脳卒中で右手や右足にまひが残った50代男性の患者がmediVRカグラを1カ月ほど使ったところ、目に見えて効果が表れたという。発症から約2年経過しているが、動かしにくかった右腕を顔の近くまで上げられるようになったほか、自分の足でビジネスホテルのバスタブをまたいで湯船につかれるようになった。