豊田中央研究所は2022年11月9日、開催中だった電池技術の学会「第63回 電池討論会」で、独自開発した「ファイバー電池」について発表した。1コマ20分の発表枠を連続3コマ使った発表(講演番号2C15~17)で、多くの参加者の注目を集めた。これまで2次元的であった電池の電極構造を、3次元(3D)化する画期的な提案といえる。
当初は“1次元”の糸
ただし、このファイバー電池は、それ一本の外見はほぼ1次元、つまり直径が最大0.3mm(300μm)の細い糸と区別がつかない(図1)。
この糸は大きく3層に分かれ、中心に負極となる炭素繊維のより線、その外側に隔壁(セパレーター)層、そして正極層から成る。
製造も一般の糸の加工と同様、糸巻きに巻いたより線を引き出して、セパレーター層、次に正極層を塗工し、それらを乾燥後に再び糸巻きに巻き取る、一種のロール・ツー・ロール(R2R)式で行う。
容量と出力のトレードオフを回避
ただし、この糸のままでは容量が少なすぎて実用にはなりにくい。豊田中央研究所はなぜこのような糸状の電池を開発したのか。それは、これまでの2次元的な電池に限界があったためだ。具体的には、容量と出力を同時に高めることが難しかったのである(図2)。
これまでのリチウム(Li)イオン2次電池(LIB)は2次元的だった。その場合、電池の容量は、電極材料の厚みに依存する。
電極材料が同じであれば、厚みを増やせば一定程度までは計算上の容量を増やせる。ところが、電極を厚くすると今度は、電極中を移動する電子やLiイオンの移動抵抗が大きくなり、大きな電流を流すことが難しくなる。
無理に高い電圧を印可して急速充電しても、思うようには電流が流れず、発熱が大きくなる。さらには、厚い電極中の活物質を使い切れず、実質的な電池容量が大幅に低下する。これを繰り返すと電池寿命にも大きく影響する。
これとは逆に、正極と負極をそれぞれ非常に薄くする電池の設計もある。この場合、電子やLiイオンは電極中の移動距離が減り、移動抵抗値が小さくなるので大きな電流を取り出しやすくなる。
ところが、今度は計算上の容量自体が減ってしまうため、大きな出力を長く続けるのが難しい。もちろん、セルを多数並べれば全体としての容量を増やせる。小さな電池を多数使うのは、初期の米Tesla(テスラ、当時はTesla Motors)の戦略でもあった。
しかし、小容量のセルごとに集電体や筐(きょう)体を実装していては、エネルギー密度は高まらない。
バイポーラー型という、セルをタブなしに直列に積層する手法が解決策の1つだが、正極と負極で集電体を共有するため、本来正負極で異なる最適な集電体の材料を選べないなどの課題がある。これは電池の内部抵抗値が高まる要因になる。