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 名古屋大学発スタートアップのCraif(クライフ、東京・文京)は2022年11月7日、自宅で完結するがんリスクのスクリーニング検査サービス「リモートがん検査」を始めた。利用者は自宅に郵送された検査キットを使って尿を採取し、返送するだけで、最大7種類のがんリスクを個別に評価した結果報告書を受け取れる。同サービスでは検査後に利用者が取るべき行動をフォローする情報も提供し、がんの早期発見への貢献を目指す(図1)。

図1 「リモートがん検査」の特徴
図1 「リモートがん検査」の特徴
検体としては、利用者に負担が少ない尿を自宅で採取するだけで済む。7種のがんについて個別にリスクを評価でき、結果に応じた追加検査などの情報を提供して評価後の行動を支援する点も特徴だ。(図は取材を基に日経クロステックが作成、写真の出所はCraif)
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 Craifは従来、尿を用いたがんリスクスクリーニング検査サービス「miSignal(マイシグナル)」を医療機関向けに提供している。2022年2月にmiSignalシリーズの第1弾として卵巣がん検査をリリース。それ以降、同年9月に乳がん、10月に肺がん、胃がん、11月には膵臓(すいぞう)がん、大腸がん、食道がんと合計7種類のがんに対象を広げてきた。

 スクリーニング検査とは無症状の人の中から疾患の疑いがある人を見つけ出す検査のことだ。スクリーニング検査の結果に応じて内視鏡やコンピューター断層撮影(CT)といった画像検査や、直接組織を採取して調べる病理検査などの精密検査につなげる。今回、医療機関に行かずに受けられるスクリーニング検査として、新たに「リモートがん検査」の提供を開始した(図2)。

図2 「リモートがん検査」を発表するCraif代表取締役CEO(最高経営責任者)の小野瀨隆一氏
図2 「リモートがん検査」を発表するCraif代表取締役CEO(最高経営責任者)の小野瀨隆一氏
(出所:日経クロステック)
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 リモートがん検査は、同社のECサイトなどで検査キットを購入し、自宅で検体を採取して郵送すると、約1カ月後に検査結果報告書が自宅に届くというのが利用の流れになる。事前の食事制限はなく、採取から郵送までの検体を冷蔵庫などに保存する必要もない。

 従来の医療機関向け検査サービスと同様に7種類のがんに対応しており、複数の組み合わせパターンを用意した。具体的には、7種類のがんを1度に検査できる「オールインワン(女性)」(税込み5万3900円、以下同)、卵巣・乳がんを対象とした「女性がんセット」(4万1800円)、肺・胃・大腸がんを対象とした「三大がんセット」(4万6200円)などだ。

 同社代表取締役CEO(最高経営責任者)の小野瀨隆一氏は「スクリーニング検査において、手軽であるというのは非常に大事」と指摘する。がん検診の受診率は50%程度で頭打ちになっており、検査を受けるためのハードルをいかに下げるかが課題となっている。同社は、自宅で完結するリモート検査である点や血液に比べて採取の負担が少ない尿を検体に用いる点などで手軽さを訴求し、がんの早期発見率の向上につなげたい考えだ。

がん細胞のシグナルを機械学習

 Craifのがんリスクスクリーニング検査は、体液中に含まれるがんの指標を調べるリキッドバイオプシーと呼ばれる手法に分類される。同社が分析しているのは、尿に含まれる「マイクロRNA(miRNA)」と呼ばれる遺伝物質だ。miRNAは他の遺伝子の機能を制御する役割を持っており、がん細胞はmiRNAを放出することで周囲の環境を制御し、免疫による攻撃を防いでいると考えられている。このがん細胞由来のmiRNAを検出し、がんリスクを評価するのがCraifのコア技術となる。

 鍵を握るのはmiRNAのパターンを学習させた人工知能(AI)だ(図3)。数千種類あるmiRNAの中から、がん種の特徴を反映する配列を数種から20種程度選定。各配列を定量化し、miRNAのパターンをがんにかかっていない人とがん患者で比較したものを教師データとした。機械学習モデルの構築に際しては、検体の管理方法の違いが結果に影響しないように複数の施設から検体を取り寄せた。早期発見を重視しているため、がんの早期ステージの患者の検体を多く含むようにしたという。

図3 がんリスクを評価するAI構築のイメージ
図3 がんリスクを評価するAI構築のイメージ
がんにかかっていない人とがん患者の尿中miRNAのパターンを学習させた。(出所:Craif)
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 機械学習モデルは、各がん種についてそれぞれ構築する。これによって、がんリスクを個別に評価できるようになった。検査結果の報告書では「肺がんは高リスク、胃がんは中リスク、大腸がんは低リスク」といったように、それぞれのがん種について「高」「中」「低」の3段階でリスクを評価する。

 機械学習モデルは「プログラム医療機器(Software as a Medical Device、SaMD)」としての承認取得も進める方針だ。まず、特に診断が難しいがんとして知られる膵臓がんから始め、2026~2028年ごろの承認取得を目指すという。また、現時点で対象としているのは7種類のがんだが、今後は尿路上皮がん、脳腫瘍、腎臓がん、前立腺がんについても機械学習モデルの構築を進めていく。