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 現在、クルマへの第4世代/第5世代移動通信システム(4G/5G)の無線装置の搭載が当たり前になりつつある。加えて、車両内でユーザーがスマートフォンを使うことも一般化している。さらに、4G/5Gの電波は人の生活圏で放射されており、ビルが乱立する都市部では合成波によって想定以上に強い電磁波を受ける場所もある。

 こうした状況を背景に、現在、国際連合(国連)が定める車載機器向けEMC規格「ECE R10」で新たな動きが出てきた。外来電磁波の誤動作耐性を測る「イミュニティー試験」で新たな試験方法を導入するというものだ。

 具体的には、リバブレーションチャンバー(RVC:Reverberation Chamber)(図1)を使った試験を項目化する。リバブレーションチャンバーとは、金属で覆われたシールドルームと機械式の撹拌(かくはん)機(スターラー)、送信アンテナ、電界プローブなどで構成される測定システムである(図2)。特徴は、送信アンテナから放射された電磁波をスターラーで撹拌し、シールドルームの表面で反射させることで均一な電磁場を形成できる点にある。このため、電磁波がビルなどに衝突してさまざまな方向からやってくる都市部のマルチパス環境を模擬できる(図3)。実環境に近い状態で車載機器の評価ができるため、イミュニティー試験の信頼性を高められる。さらに、広い均一な電磁場をつくれ、一度の測定で複数のEUT(Equipment Under Test)を同時に試験できるため、試験の効率を高められるというメリットも得られる。

 EMCの国際規格動向に詳しい日本品質保証機構(JQA)の牧本和之氏によると、「2023年に発行される改訂版において、リバブレーションチャンバーが採択されるのは確実」という。

 それだけではない。ECE R10では、測定周波数の上限値を現在の1GHzから6GHzに高める審議も同時に進んでいる。同氏によると、「6GHzへの高周波化は、現時点では次の改訂版に盛り込まれるかどうか不透明」という。ただし、盛り込まれればリバブレーションチャンバーへの対応に加えて、最大6GHzの電磁波を受けても悪影響を受けない電子/電気回路の設計が求められることになる。この上限の拡大は、特に5Gの通信周波数帯が高周波化していることがある。例えば、5GのSub6では、3.7GHz帯や4.5GHz帯が使われる。

図1 JQAに導入したリバブレーションチャンバー
図1 JQAに導入したリバブレーションチャンバー
TDKのリバブレーションチャンバーを採用した。中央に置かれているのが機械式の撹拌機(スターラー)で、これを回転させることで均一な電磁場を作り出す(撮影:著者)
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図2 リバブレーションチャンバーのシステム構成
図2 リバブレーションチャンバーのシステム構成
リバブレーションチャンバーは、全面を金属で覆ったシールドルーム(シールドキャビティー)や、機械式の撹拌機(スターラー)、送信アンテナ、電界プローブ、パワーアンプ、制御/測定用ソフトウエアなどから構成される(出所:TDK)
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図3 均一な電磁場を生成
図3 均一な電磁場を生成
リバブレーションチャンバーと電波暗室を使った場合の受信電界強度のばらつきを測定した。リバブレーションチャンバーを使えば、電界強度は広い面積で均一だが、電波暗室では電界強度のばらつきが大きい(出所:TDK)
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 リバブレーションチャンバーそして、6GHzまでの測定周波数の拡大。こうした項目がイミュニティー試験に導入されれば、車載機器メーカーはそれへの対応が求められる。ところが、現在国内には、リバブレーションチャンバーを備えるEMC試験所(テスト施設)が少ない。実は、ECE R10では、リバブレーションチャンバーに加えて、既存の電波暗室によるイミュニティー試験が併記される予定で、車載機器メーカーはどちらかの試験方法を選べる。ただし、リバブレーションチャンバーを使ったほうが信頼性の高いイミュニティー試験を実施できるため需要の急拡大が予想される。従って、今後、急ピッチで増やさないと、EMC試験所が足りないという課題が顕在化しそうだ。