花王がローコード開発で製造現場のDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めている。その一例が衣料用洗剤や住居用洗剤などを製造する和歌山工場に見て取れる。製造現場で働く社員4人が3週間で原材料を管理するスマートフォン向けアプリケーションを開発し、年間の作業時間を約480時間短縮した。
手書きの「紙」での管理を脱却
同工場では原材料の種類や保管場所、量を管理するために長らく紙のカードを使っていた。カードは原材料ごとにあり、その種類は約300。カードでの管理はカードを探す手間がかかるだけでなく、手書きのため一目で判別しづらいといった課題があった。カードを紛失した場合、生産に支障を来す恐れもあった。
課題を解決するために米Microsoft(マイクロソフト)のローコード開発ツール「Power Apps」を使って2021年7月に開発を始めたのが「原材料管理アプリ」だ。アプリ画面上で製造する製品を選ぶと、必要な原材料が自動的に表示される。製造後に原材料の在庫数量を入力すると、入力前の在庫数量との差分から今回の製造でどの原材料をどの製品にどのくらい使ったかが自動で計算・記録される。
アプリには、製造上扱う危険物の「保管量」を警告する機能も搭載した。危険物は保管量の上限がそれぞれ定められており、和歌山工場での保管量が上限の7割を超えるとアプリのホーム画面にアラートを表示するというものだ。従来は、紙カードの内容をExcelシートに転記して集計して保管数量を管理していた。アラートとしてアプリのホーム画面に表示されることで「情報共有が容易になった」(竹本滋紀技術開発センター先端技術グループマネジャー)。
アプリ導入の定量的評価について、和歌山工場化学品プロダクション部門ファインケミカルに所属する渋谷遼氏は「年間で約480時間の作業時間を削減できた」と話す。同工場では工場内の設備点検といった他の業務についても業務効率化に役立つアプリをPower Appsで開発・運用しているという。