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 「従来は熟練工が生産前に3時間ほどかけて大型陶板の色合わせ試験をして、インクの濃淡や配合割合を決めていた。AI(人工知能)によってこの試験が不要になり、生産性が1.3倍に高まった」。TOTOの平島道久環境建材事業部環境建材開発部技術開発グループチームリーダーは自社開発したAIの効果をこう語る。

 TOTOのAIは、原料の性質や求める色味を入力すると、大型陶板の焼き色を予測して適切なインクの配合などを提示するものだ。壁や床などの建材となる大型陶板は一般に生産が難しいという。TOTOは自社の生産技術を生かして1985年から陶板事業を手掛けてきたが、加工の手間が比較的小さい樹脂などの素材に押されていた。新しいAIは商機を見いだす重要な武器になるという。

生産現場の熟練工を巻き込みモデル開発

 大型陶板の生産は大きく分けて、「原料の成形」「印刷などの意匠形成」「焼成などの機能付与」という3つの工程から成る。天然の原料を使うため日によってその性質が違うのに加え、外気温や湿度なども大型陶板の品質に影響する。そのためインク配合などの条件が同じでも、大型陶板の焼き上がりの色は日によって変わるという。

大型陶板の製造工程
大型陶板の製造工程
(出所:TOTO)
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 従来は熟練の職人が陶板の生産前に、インクの濃淡や配合割合などの設定を変えながら実際に陶板を焼いて色味を確認し、インク配合などを決めていた。平島チームリーダーは「色合わせの試験に3時間ほどかけていた。これは生産性向上の課題だった」と振り返る。

 この課題を解決するため、機械学習モデルの検討を始めた。モデルによって大型陶板の焼き上がりの色味を予測できれば、色合わせの試験が不要になる。色味の予測を応用すれば、求める焼き色に合わせてインクの濃淡や配合割合を算出することも可能だ。

 モデルの学習データとして着目したのは、生産工程の状況を記録した紙の日報や、IoT(インターネット・オブ・シングズ)センサーで取得した数値データだった。平島チームリーダーら3人のチームは2020年4月から6月ごろまでの3カ月間で半年分のデータをデータベースにまとめた。さらに、生産した大型陶板の色味を独自指標で数値にしたという。