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 テラスカイの子会社であるQuemixが、量子コンピューター用のアルゴリズム「確率的虚時間発展法(PITE)」を使えば、現行方式のコンピューターに比べて量子化学計算を高速化できるとの研究結果を発表した。

 量子化学計算は、量子状態にある分子や原子の振る舞いをシミュレーションする技術である。シミュレーションする分子のサイズが大きくなると、計算量が指数関数的に増大するため、現行方式のコンピューターにとって非常に難しい。そのため量子化学計算の高速化は、量子コンピューターにとっての「キラーアプリケーション」になり得ると期待されている。

 現行方式のコンピューターで量子化学計算を行う場合、よく用いられるのがDFT(密度汎関数法)だ。ある原子核配置をとる分子のエネルギーの近似値をDFTで計算する場合、分子や原子の数が「N」とすると、その計算量は「Nの3乗」に比例して増加する。

 さらにDFTを使って分子や原子の構造が最も安定する原子核配置を見つけようとする場合、原子核配置のそれぞれについてエネルギーを計算し、その値が最も小さくなる原子核配置を探索する必要がある。原子核配置のバリエーションは原子数に対して指数関数的に増えるため、その計算量も指数関数的に増大する。

 それに対して、Quemixが開発したアルゴリズムであるPITEを量子化学計算に適用して、分子や原子の構造が最も安定する原子核配置を見つけようとした場合、計算量の増え方は「Nの2乗程度」で厳密解を求められるとした。これをプレプリント(査読前)論文の公開サイト「arXiv」で、2022年10月18日に「Exhaustive search for optimal molecular geometries using imaginary-time evolution on a quantum computer」という論文で公開した。

図●量子化学計算用アルゴリズムの計算量比較
図●量子化学計算用アルゴリズムの計算量比較
(出所:Quemixの資料を基に日経クロステックが作成)
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最も安定する構造を「あぶり出す」

 Quemixが開発したPITEは、量子ビットの誤り訂正が可能な量子コンピューター向けのアルゴリズムである。シミュレーション対象である分子や原子が取り得る全ての原子核配置を重ね合わせた状態で量子ビット上にエンコードし、それに対して「虚時間発展」という処理を施す。その結果、分子や原子の構造が最も安定する原子核配置の情報だけが分かるのだという。

 前述の通り現行方式のコンピューターでDFTを使う場合は、原子核配置のそれぞれについてエネルギーを計算する必要がある。それに対してPITEの場合、取り得る全ての原子核配置について同時に計算を実行する。計算を進めるに従って「あぶり出されるように」(東京工業大学の特任准教授を兼ねるQuemixの松下雄一郎社長)、構造が最も安定する原子核配置の情報が分かるとしている。

 PITEの難点は、量子ビットの誤り訂正が可能な量子コンピューターの実用化時期が定かではないことだ。現在の量子コンピューターは、量子ビットの誤り訂正ができないNISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum Computer、ノイズがありスケールしない量子コンピューター)である。

 このためNISQでも使える量子化学計算アルゴリズムが開発されている。しかしNISQを使う量子化学計算は、現行方式のコンピューターに比べて量子化学計算を高速化できる見込みが立っていない。