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 「これまではスマートスピーカーや家電、住設機器などを手掛けるメーカー各社が独自のプロトコルで囲い込みをしようとした結果、スマートホーム市場が分断されて思うように成長しなかった。そこで、プロトコルを共通化しようと世界のさまざまな企業が手を組んだ点で大きなインパクトを持つ」(三菱電機リビング・デジタルメディア事業本部IoT・ライフソリューション新事業推進センター センター長の朝日宣雄氏)

 2022年10月4日、米Connectivity Standards Alliance(CSA)は、スマートホームの新しい通信規格「Matter(マター)」の仕様1.0版を公開した。同時に認証プログラムも開始した。CSAの前身は近距離無線通信規格「Zigbee」の規格策定と普及活動を行ってきた「Zigbee Alliance」である。仕様の公開によって製品開発は本格的なスタートを切り、2023年末ごろには数多くの対応製品が登場するとみられている(図1)。

図1 Matterのロゴと製品デモの様子
図1 Matterのロゴと製品デモの様子
フランスNetatmo(ネタトモ)が披露したセキュリティーセンサーのデモ。窓やドアにセンサーを取り付け、開閉状態をスマートデバイスで確認したり、照明と連動させて警告を出したりできる。2022年9月に開催された「IFA 2022」で撮影(写真:日経クロステック)
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 Matterは、冒頭のコメントにあるように、これまで多数の規格が乱立していたスマートホームの“戦国時代”に終止符を打つ「最終統一規格」になると期待されている。Matterがこのように評価されているのは、米国のAmazon.com(アマゾン・ドット・コム)、Google(グーグル)、Apple(アップル)の3社が、デバイスの相互接続性に関しては協調戦略に転換したことによって誕生した規格であるためだ。各社とも、これまでは独自プロトコルをベースにしたプラットフォームで囲い込み戦略を推進していた。

 さらに、家電や半導体など世界のそうそうたる企業がMatterへの対応を表明していることも大きい。CSAへの参加企業は2022年11月28日時点で542社。会員の階層は、仕様策定をリードするボードメンバーである「Promoter(プロモーター)」、仕様策定に関わりワーキンググループへの参加権を持つ「Participant(パーティシパント)」、策定された仕様を基に製品を開発できる「Adopter(アダプター)」の3種類があるが、会員数はそれぞれ29社、272社、241社となっている。

 プロモーターにはアマゾン、グーグル、アップルのほかに、韓国Samsung Electronics(サムスン電子)、韓国LG Electronics(LG電子)、中国Haier(ハイアール)、中国Huawei(ファーウェイ)、スウェーデンIKEA(イケア)、照明大手のオランダSignify(シグニファイ)、電気機器・産業機器大手のフランスSchneider Electric(シュナイダーエレクトリック)、さらに米Texas Instruments(テキサス・インスツルメンツ)やドイツInfineon Technologies(インフィニオンテクノロジーズ)といった大手半導体メーカーなどが参加している(表1)。

 パーティシパントには英Dyson(ダイソン)や米Intel(インテル)、米Meta Platforms(メタ・プラットフォームズ)のほか、米iRobot(アイロボット)、米Tesla(テスラ)も名を連ねる。これだけ幅広い業界からビッグネームが参加するスマートホーム規格はかつてなかった。

表1 Matterへの主な参加企業
規格統一を主導したアマゾン、アップル、グーグルのほかに、世界の大手電機メーカー、半導体メーカーなどが名を連ねる。2022年11月28日時点(表:日経クロステック)
表1 Matterへの主な参加企業
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 ちなみにCSAへの参加は有償で、プロモーターは年間10万5000米ドル(約1450万円)、パーティシパントは年間2万ドル(276万円)、アダプターは年間7000ドル(97万円)の費用がかかる。

認証済み製品しかつなげない

 MatterはIPv6ベースの通信プロトコルである。当初はWi-Fiのほか、低消費電力の無線通信規格「Thread」*1のネットワーク上で動作する。デバイスの設定にはBluetoothの低消費電力版「Bluetooth Low Energy(BLE)」を用いる。

*1 グーグル傘下の米Nest Labs(ネストラボ)が主導してきたIPv6ベースの規格。Zigbeeと同じ物理層(IEEE802.15.4)を用いる。

 肝はアプリケーション層に実装するMatterの“抽象化レイヤー”にある。ここでアマゾンの「Alexa」、アップルの「HomeKit」、グーグルの「Google Home」といった異なるプロトコルの違いを吸収するとともに、各社が用意するMatterのAPI(Application Programming Interface)と連携する役目を果たす(図2)。Alexa、HomeKit、Google Homeのほか、サムスン電子の「SmartThings」、シグニファイの「Philips Hue」に対応したデバイスの相互接続性を担保する。

図2 Matterの構成
図2 Matterの構成
肝はアプリケーション層に実装する“抽象化レイヤー”にある。ここで異なるプロトコルの違いを吸収するとともに、各社が用意するMatterのAPIと連携する(図:村田製作所の資料を基に日経クロステックが一部改訂)
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 これによって、例えばAlexaに対応したスマートスピーカー「Amazon Echo」で、HomeKitやGoogle Homeに対応したデバイスを操作できるなど、これまでのスマートホームの分断を解消する(図3)。ユーザーは「Matter」のロゴが付いたデバイスを買えば、規格の違いを気にすることなく使える。

図3 Matterの主な特徴
図3 Matterの主な特徴
「相互接続性の担保」「巨大エコシステム」「信頼性と安全性の向上」の3つが挙げられる(図:日経クロステック)
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 また、これまで規格ごとに複数のアプリや音声入力アシスタントを使い分ける必要があったのが、1つのアプリや音声入力で済むようになる。もっとも、Matterには中心的なアプリや音声入力は存在しないため、利用開始時に使いたいものを選択する必要がある。

 Matterのもう1つの特徴として、信頼性と安全性の向上が挙げられる。これまでスマートホーム市場向けに中国製などのさまざまなデバイスが販売されてきたが、MatterではCSAに参加して「ベンダーID」を持つ企業が開発し、指定の認証局が許可した製品しかネットワークに接続できない。また、セキュリティー対策として公開鍵基盤(PKI:Public Key Infrastructure)の仕組みが採用される。