火力発電や原子力発電に代わる次世代エネルギーと目される核融合発電。その中でもさまざまな用途に応用できる「レーザー核融合技術」は将来、国内のエネルギー問題を解決する重要な手掛かりになると期待される。大阪大学レーザー科学研究所(大阪府吹田市)教授の藤岡慎介氏らは研究を重ね、今後10年ほどでレーザー核融合による発電システムが成立することを検証していく計画だ。
大阪大学の構内にあるレーザー科学研究所には、レーザーを発生させて核融合炉(チャンバー)へと導く巨大な配管が幾重にも行き交う。吹き抜けの空間に核融合炉があり、それを囲むように配管がつながる。SF映画に出てくる宇宙船内部のような光景だ。レーザー核融合向けの実験施設としては国内最大級という。将来は核融合によって得られた熱を回収し、熱交換器で水を沸かしてタービンを回すことで発電に応用する狙いもある。
藤岡氏は「10年ほどをかけてレーザー核融合による発電のシステム成立性を検証する計画が進んでいる」と語る。核融合技術の確立には数十年以上の歳月がかかるとされるものの、安定して熱を回収できるようになれば発電システムは早期に実現できる見込みだ。「日本は高効率のタービンを製造できる重工メーカーをはじめ多くのプレーヤーを擁しており、部材や技術を国内で賄える」(藤岡氏)ためだ。
藤岡氏らの研究チームは現在、レーザー核融合の基礎研究を進めており2023年初頭にも実証実験に取りかかる。1カ月間ほどの期間をかけて供給しやすい形状をした燃料の有効性を確かめる。将来はエネルギー効率の高い半導体レーザーの採用も検討しており、レーザーの照射と核融合反応を連続して起こせるようにする考えだ。
レーザー核融合は、重水素と三重水素からなる球体の燃料にさまざまな方向からレーザーを照射して核融合反応を起こす。燃料の表面がレーザーで加熱されて蒸発する際に、内側へかかる反作用を利用して燃料を内側に圧縮する。セ氏5000万度以上の高温と固体密度の数千倍の高圧状態をつくり出し、重水素と三重水素を核融合させる仕組みだ。このとき燃料をいかに均一に圧縮するかが、反応効率の鍵を握る。