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 AI(人工知能)を使って契約書の内容を審査するサービスは、弁護士以外による法律事務を禁じる弁護士法第72条に違反するのか――。かねて指摘されていたこの問題を巡って、法務省はこのほど適法となるケースについて見解を示した。同省は今後ガイドラインの整備を検討する。

「鑑定」には該当せず

 AIを使って契約書のリスクや抜け漏れなどを審査するサービス(以下、AI契約書審査サービス)には、国内ではLegalOn Technologies(2022年12月1日にLegalForceから社名変更)がクラウドサービスで提供する「LegalForce」などがある。かねて弁護士法第72条違反を懸念する声が出ていた。 

 弁護士法第72条は次のケースを違法としている。弁護士でない者が報酬を得る目的で、訴訟など法律上の権利義務に争いのある法律事件について、法律上の専門知識に基づき法律的見解を述べる「鑑定」を「業とする」場合である。AI契約書審査サービスを巡っては、鑑定をしているかどうかが論点の1つとなっていた。

 これに対し、内閣府・規制改革推進会議に設置されたスタートアップ・イノベーションワーキング・グループで2022年11月11日に開催された第2回会議において、法務省は国内で既に提供されている同サービスは弁護士法第72条に違反しないとの見方を示した。具体的には、既存のAI契約書審査サービスはあらかじめ登録されているひな型の条項などと審査対象の契約書に異なる部分があれば、その部分を審査対象の契約書の意味や内容と無関係に強調表示するため、鑑定に当たらないとの見方を法務省が示した。

適法と考えられるAI契約書審査サービス
(出所:内閣府規制改革推進会議スタートアップ・イノベーションワーキング・グループ第2回会議の議事録と資料を基に日経クロステック作成)
サービスの類型サービスの利用者概要
有償サービス弁護士以外・法律的な意味内容を判断しない、自然言語処理によるAI契約書審査(例えば秘密情報の定義の有無を指摘するなど、あらかじめ登録したひな形の条文などと比較した異なる部分を機械的に表示するといった内容が該当する)
・国内の既存サービスには「LegalForce」などがある
弁護士・法律的な意味内容を判断するAI契約書審査も可
・国内の既存サービスはない
無償サービス(広告モデルなどによるもの)(利用者による違いなし)

 同会議では議論に先立ち、LegalOn Technologiesなどが参画する一般社団法人AI・契約レビューテクノロジー協会が既存のAI契約書審査サービスで使う技術を紹介し、サービス利用時のデモンストレーションをした。同協会は資料の中で「誤解を招きやすい点として、『大量の契約書データを機械学習にかければ、ソフトウエアが勝手に賢くなり、勝手に正確に契約書をレビューしてくれるようになる』との誤解があるが、現時点ではそのような技術は実用化されていないと認識している」とした。

AI契約書審査サービスで使う技術の特徴
(出所:一般社団法人AI・契約レビューテクノロジー協会の資料を基に日経クロステック作成)
・弁護士の監修の下、一般的な注意喚起文や解説、参考条文例などから成るチェックリストや契約類型の分類などを「表示情報」としてあらかじめ作成する。この表示情報は一般的な内容である
・審査対象の契約書にどの表示情報を対応させるかを決める「言語条件」を、自然言語処理技術など使って設定する
・利用者が契約書をアップロードすると、システムが契約書の文字情報を解析し、言語条件に沿った表示情報を自動的に提示する
・システムで表示する表示情報は個別の解釈ではなく、一般的な参考情報であると利用者が分かるように説明している

 なお、弁護士が法律業務をする際に「補助的」にAI契約書審査サービスを使う場合や、無償利用の場合は、弁護士法第72条に違反しない。