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 最近になって、中国や北欧で電気自動車(EV)の普及に弾みがつき、世界の市場規模は年間1000万台の大台に乗りつつある。一方で、EVが急増したことで、休日の行楽地などでの充電渋滞が顕在化し、EVの充電インフラの課題があらためてクローズアップされる事態にもなっている。

 そこで、その課題を大きく解決する可能性のある、道路に敷設したワイヤレス電力伝送(WPT)システムで走行中のEVに給電する「走行中給電」に再び脚光が当たり始めた。加えて、システム開発の担い手も、これまでの大学など研究機関から、実際に社会インフラを担う建設会社大手へと移り始めた。具体的には、大成建設や大林組だ。両社はそれぞれ異なる方式の走行中給電技術やシステムで、道路への社会実装実現に向けて研究所構内での実証実験を始めている。

共鳴で伝送可能距離が大きく伸びた

 WPTには大きく(1)電界共鳴結合、(2)磁界共鳴結合――の2方式がある(図1)。(1)はコンデンサーの一種を使う技術で、交流電力の伝送では一般的な技術といえる。ただし、これまでの“無線伝送距離”は非常に短かった。(2)も従来の電磁誘導の延長線上にある技術だ。ただし、以前は「共鳴(resonance)」があまり意識されていなかった。

図1 磁界共鳴結合と電界共鳴結合は一長一短
車両へのワイヤレス給電技術2種類を比較した(a)。磁界共鳴結合は、コイルから出る交流磁界を介して電力を無線伝送する。このとき、送電コイルと受電コイルはそれぞれ固有の共振周波数を持っており、しかも両コイルを含むシステムとしての共振周波数もある。この周波数で送電することで、伝送効率が高まる。電界共鳴結合も電力の輸送媒体が電極から出る電界であるほかは、磁界共鳴結合とほぼ同じ原理で動作する。大成建設などは電界(共鳴)結合、大林組などは磁界共鳴結合を電力の無線伝送技術として選択した。電気的なシステムだけみれば電界共鳴結合のほうが簡素ですみ、コスト面で有利といえる(b)。ところが電界共鳴結合は、道路の施工や路面材料などの点でコストアップ要因が多く、全体としては優劣がつけにくい(出所:日経クロステック)
(a)磁界共鳴結合(左)と電界共鳴結合(右)
(a)磁界共鳴結合(左)と電界共鳴結合(右)
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(b)大成建設と大林組の選択の比較
(b)大成建設と大林組の選択の比較
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 2006年に世界で初めてこの共鳴の重要性を提唱したのが、米Massachusetts Institute of Technology(マサチューセッツ工科大学、MIT)の当時Assistant Professor of Physics(現Professor of Physics)だったMarin Soljacic氏だ注1)。この共鳴が非常に大きくなるように回路パラメーターを選ぶと、無線伝送する距離をそれまでよりずっと長くとれるようになるというものである。

注1) MITのSoljacic氏が提唱したのは磁界共鳴だけという“誤解”が広まっているが、同氏は2006年に磁界共鳴だけでなく、電界共鳴も同時に提唱している。ただし、2007年6月に学術誌「Science」で磁界共鳴の実証実験を発表したことで、磁界共鳴の開発者という認識が強まったようだ。