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 理系人材の不足は深刻な問題だ。先端IT人材は2030年に54.5万人不足すると経済産業省は予測している。国は2022年5月、理系人材を50%程度にする目標を掲げたが、「絶望するほど高い目標」と電気通信大学の田野俊一学長は語る。科学技術立国に欠かせない理系人材を増やすには何が必要か。

 理系人材不足の原因は、理数系科目が不得意な日本人の割合が多いからではない。「理数リテラシーを持つ子供は実は多い」と田野学長は指摘する。経済協力開発機構(OECD)が各国の15歳を対象に3年に1度実施する学習到達度調査(PISA)の2018年の結果を見ると、義務教育修了段階である高校1年生の時点では理数リテラシーが比較的高い生徒が多く、約4割を占める。

理数リテラシーを持つ子供は実は多い
理数リテラシーを持つ子供は実は多い
出所:2022年3月3日の総合科学技術・イノベーション会議教育・人材育成ワーキンググループ事務局資料を日経クロステックがキャプチャー
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 しかし大学に入学する際になると、理系学部を選ぶ生徒は減る。なぜなら「そもそも理系学部の入学定員の割合が減っているためだ」と田野学長は指摘する。

 文部科学省の調査によると大学の入学定員は2020年に約64万人となり、1970年からほぼ倍増した。しかし理系主要分野である「理学」と「工学」の定員割合は24%から17%に減少した。

大学において理工系への入学者数は減少傾向にある
大学において理工系への入学者数は減少傾向にある
出所:第3回教育未来創造会議配布資料を日経クロステックがキャプチャー
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 従って、大学受験の際に「理系学部の倍率は高いから」という理由で理系進学を諦める生徒が増える結果になった。「大学において理系学生の定員が少ないことこそが理系人材不足の真の原因だ」(田野学長)

大学教育は国による規制産業

 ではなぜ大学における理系学部の定員が少ないのか。背景には「国による定員抑制がある」(田野学長)という。

 国立大学において学部収容定員の総数増加は、医学部の臨時定員増を除き、原則として認められていない。東京23区では、2018年に公布された「地域における大学の振興及び若者の雇用機会の創出による若者の修学及び就業の促進に関する法律」により、公立大学や私立大学も含む全ての4年制大学および短期大学において収容定員増加を抑制されている。

 「大学教育は国による規制産業だ。こうした定員構造が放置されている点が問題だ」と田野学長は言う。

 いびつな定員構造の背景には、私立大学が経営上の理由から文系重視になりがちだという事情もあるという。理系学部のカリキュラムは大教室で数百人の学生を相手に1人の教員が教えるような講義は比較的少なく、1年生から6人程度の少人数の学生に対し教員1人が教えるような実験や演習スタイルの講義が多い。少人数制の指導に加えて実験などの設備も必要で、理系は文系と比べて学生を増やしづらい。

 田野学長は「国のビジョンがないことが問題だ」と指摘する。「どのような人材をどのくらい輩出すべきという全体図を示さないまま、一部の利害関係者の意見をはねつけられなかった。その結果、いびつな定員構造が延命してしまった」(田野学長)