リコーは大阪大学と共同で、てんかんの脳波を解析するアルゴリズムを開発した。画像認識系の人工知能(AI)を応用し、従来は半日かかるほど負荷の高かった検査データの解析作業を自動化する。てんかん診断の省力化への貢献を目指し、研究を加速する構えだ。
このたび脳波解析アルゴリズムを開発した背景には、リコーが手掛ける脳磁計事業がある。同社は2014年に生体磁気計測装置の開発を始め、2016年には横河電機から脳磁計事業を譲り受けた。以降、脳磁計測システム「RICOH MEG」を展開している。研究成果は米国科学誌「IEEE Transactions on Medical Imaging」で発表された。
脳の活動を磁場として検出
てんかんは脳の神経が激しく興奮する発作を起こすのが特徴だが、発作がないときでもてんかん特有の異常脳波がみられる。この発作が出ていない間の異常脳波を検出し、発生部位を推定するのが脳磁計だ。脳磁計は、脳の神経活動で生じる微弱な磁場を捉えることで、脳波を計測する装置。神経が活動する際は微弱な電流が生じており、この電流の変化を磁場として検出するというのが脳磁計の基本原理になる。
脳波を計測するには、頭皮に着けた電極で電位差を測る脳波計を使う方法もある。リコーによれば、脳磁計の方がクリアに神経活動を計測できるメリットがあるという。
RICOH MEGは160個の磁場検出コイルを備えた装置の中に頭を入れて計測する仕組みになっている。各コイルで検出する磁場の違いから、脳のどの部位で異常脳波が出ているかを推定する「ダイポール解析」を行う。てんかん検査の場合は数十分程度計測するのが一般的で、その間に得られた脳磁図から神経の活動パターンを解析する。
てんかんの脳波解析で重要になるのは、脳磁図に現れる「スパイク」だ。神経活動が急激に変化するため、その名の通り脳磁図ではとげのように見える。てんかんには様々な種類があり、それぞれ特徴的なスパイクのパターンがある。脳のどの部位でいつスパイクが生じたかを正確に見極めることがてんかん診断では重要になる。
しかし、数十分に及ぶ計測から得られた脳磁図をミリ秒単位で解析していく作業は医師の大きな負担になる。海外で行われた研究では脳磁図の解析には3時間から80時間(中央値は8時間)を要するという調査結果が報告されている。リコーデジタル戦略部デジタル技術開発センター第2開発室ヘルスケアAI開発グループの長谷川史裕リーダーは「医師が脳波解析に時間を取られると、その間患者を診られないことになる。AIで効率化できればより多くの患者を診ることができ、病院にとっても患者にとってもメリットになる」とAI開発の意義を語る。
このたびリコーと大阪大学が開発したてんかんの脳波解析AIは、脳磁図からてんかんに特徴的なスパイクを見つけ出し、ダイポール解析までを自動で行う。発生したスパイクの数にも依存するが、医師による解析に比べて脳波解析にかかる時間を大幅に短縮できると期待される。以下では脳波解析の自動化を実現したAIについて深掘りする。