電気自動車(EV)向け蓄電池市場の拡大が止まらない。調査会社の韓国SNE Researchによれば2022年1~10月の世界の出荷量合計は390.4GWh(表1)。前年同期の222.5GWhの1.75倍になった。2022年通年では500GWhに迫る勢いである。
この市場調査で目立つのが、これまで中国・寧徳時代新能源科技(CATL)と同BYDの陰に隠れて目立たなかった中国メーカー数社の急速な台頭だ。同・中創新航(CALB)、同・国軒高科(Gotion High tech)、同・欣旺達(Sunwoda Electronic)、同・億緯鋰能(EVE Energy)の4社はいずれも前年同期比で2倍を大きく超える出荷量を達成した。1年後にはこれらの多くが、10傑の中で唯一出荷量をほとんど伸ばせていないパナソニックを抜き去ってゆきそうだ。
生産量拡大のタイミングが奏功
中でもCALBは2022年8~11月で、月間出荷量が4倍超になるなど直近の急増ぶりが目立つ(図1)。同社の蓄電池の主力はリン酸鉄リチウム(LFP)系リチウム(Li)イオン2次電池(LIB)。それ以外の特徴は見えにくいが、同社は2021年秋に電池の生産量を年産100GWhに拡大することを決定。その工場の一部が2022年秋に稼働したことを反映している。
100GWhはおよそEV200万台分だが、市場はそれを飲み込む勢いで拡大している。例えば、調査会社のシンガポールCanalys(カナリス)によれば、世界のEV市場は台数ベースで年率118%増、つまり2倍を大きく超える勢いで拡大中だ注1)。中国におけるEVの販売数は2022年だけで500万台を超える見通しだとする。CALBは1年後のランキングでは上位に食い込んでくる可能性が高い。
360Wh/kgの半固体LIBを近く量産
今回の市場調査で出荷量8位だったGotionも今後の市場シェアの急拡大がほぼ確実なメーカーの1社である。
同社は、筆頭株主がドイツVolkswagen(フォルクスワーゲン、VW)で、これまでしばしばCATLのライバルと位置付けられてきた。ただ、出荷実績ではそのライバルに水を開けられていた。しかし今後は、その差を急速に縮めてくる可能性が高い。
というのもGotionは2022年5月、重量エネルギー密度が360Wh/kgと高い半固体のLIBを発売したからだ。材料系は明らかにしていないが、電解質に液体電解質と固体電解質の混合物を用いている。2022年末にはある自動車メーカー向けにサンプル出荷を始め、2023年には本格的に量産するという。
大型セルで高温にも強い
Gotionは、2021年には重量エネルギー密度が210Wh/kgと高いLFP系LIBと、同306Wh/kgの3元系正極のLIBをそれぞれ開発するなど、以前から技術の高さには定評があった。さらに近い将来、LFP系LIBの重量エネルギー密度を230Wh/kgまで引き上げる計画だ。加えて、2022年12月にはナトリウム(Na)イオン2次電池(NIB)も開発してサンプル出荷中であることを明らかにしている。
半固体LIBの寸法は500mm×120mm×9mmと大型だが、他のセルの寸法も同程度に大型であることも同社の製造技術の高さを示している(図2)。
液体電解質をぎりぎりまで減らしたとみられるせいか、安全性も高いもようで、セ氏180度で30分という高温テストを含む各種安全性試験をクリアしたほか、さまざまな太さの釘(くぎ)刺し試験でも発火しなかったという。
Gotionは電池の生産計画を2021年秋時点で、2025年に年産300GWhとしていたが、半固体LIBの開発でそれをいくぶん変更するようだ。最近はVWへの出荷開始時期を2024年前半としている。2023年に量産出荷する先の自動車メーカーは未公表だが、2021年11月に提携を発表した中国・長城汽車(Great Wall Motor、GWM)である可能性が高い。出荷先が複数あることで、同社の今後の飛躍的な事業拡大はほぼ確実といえるだろう。