日米欧中の工場で、リサイクル材を使った車載電池を量産へ――。本格的な検討を進めているのが、車載電池大手のエンビジョンAESCグループ(神奈川県座間市)である。2024年ごろから段階的に生産を始め、自動車メーカーに供給する。
「リサイクルしやすい電池の開発を重視していく」。潮目の変化を語るのは、同社副社長でCTO(最高技術責任者)の明石寛之氏だ。規制対応や資源の確保、廃電池問題などの観点から、「電池のリサイクルは避けて通れない」(同氏)状況になってきたという。
電池メーカー各社は長年、エネルギー密度向上とコスト低減にまい進してきた。これらに加えて今後は、リサイクル技術が競争力を左右することになりそうだ。エンビジョンAESCグループは電池の年間生産能力を2026年に300GWhにする計画。2022年比で15倍だ。日米欧中で新工場の建設を進めており、これらの拠点に「電池をリサイクルするプロセスを導入していく」(同氏)。
欧州規制と米インフレ抑制法が引き金
電池メーカーが対応を迫られている規制は、欧州連合(EU)の「電池リサイクル規制」と米国の「インフレ抑制法」の2つ。前者の骨子は、2027年から電気自動車(EV)のリチウムイオン電池などを対象にコバルト(Co)やリチウム(Li)、ニッケル(Ni)などのリサイクル材の使用量を開示するよう求め、2030年から同電池を搭載した製品にリサイクル材の使用を義務付けるものである。
後者では、EV購入者に対する税控除の条件がポイントとなる。条件の1つとして、「電池材料の重要鉱物のうち、調達価格の40%が米国と自由貿易協定(FTA)を結ぶ国で抽出あるいは処理されるか、北米(米国、カナダ、メキシコ)でリサイクルされていること」とした。さらに、中国を含む「懸念される外国の事業体」が関与する部品や重要鉱物が含まれる場合は、控除の対象外としていく方針だ。
EUや米国が規制強化に動くのは、「EV用電池がエネルギー安全保障や産業育成の観点で重要度を増しているから」(電池業界に詳しい関係者)だ。電池業界内からは「やり過ぎ」との声も多いが、電池材料のリサイクルや現地調達を強化していく他に方法はないだろう。
2032年には300万トンの“電池ごみ”
中長期的な視点では、資源確保への対応が重要になる。車載用リチウムイオン電池の2022年の市場規模は、矢野経済研究所の見込みでは約443GWhになる。業界内では、500GWhに迫るとの見方も強い。前年比で2倍前後の伸びだが、まだ拡大の途上だ。
車載電池の規模は、10年以内に10倍まで膨らむ可能性がある。自動車メーカーのEV投入計画や電池メーカーの生産予定を積み上げると、3TWh(3000GWh)とも5TWhともいわれる年間生産量になる。需要が増えれば当然、CoやLi、Niといった主要材料は取り合いになる。材料の市場価格も上昇傾向で、そうなるとコストの高さがネックだった電池リサイクルの推進にとって追い風となる。
電池リサイクルは、廃電池問題の解決策という側面も持つ。EV用電池の耐用年数は10~15年で、2032年には500GWh前後の廃電池が発生するとみられる。重量換算すると、「200万~300万トン」(エンビジョンAESCグループの明石氏)になる。
電池リサイクルの能力は現状で「50万トンほど」(同氏)で、電池の廃棄量が増えれば処理しきれない。しかも、現在は廃電池をセメント材料や金属スクラップなどに転用するリサイクルが大半を占める。規制対応や資源確保などの観点を踏まえると、廃電池を処理して再び電池材料として使う「クローズドループ」のリサイクルが求められる。