欧州連合(EU)は2022年10月、2035年に欧州域内で販売される全ての乗用車・小型商用車をZEV(ゼロ・エミッション・ビークル)、すなわち電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にする方針を打ち出した。これは事実上、同年から欧州域内ではガソリン車などの内燃機関車の販売が禁止されることになる。世界で相次ぐガソリン車への規制に、これまで環境車ではハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)が主力だった日本勢も、脱・内燃機関へ対応を急ぐ*1。
「日本もようやくEVに大きくかじを切った」――。日本工作機械工業会会長の稲葉善治氏は期待を込めてこう話す。ガソリン車からEVへの大転換「EVシフト」は、自動車部品の製造に欠かせない工作機械にとって、EV部品の増産に向けた設備投資や、新たな加工に対応するための機械更新といった大きな需要が期待できる(図1)。同氏は「日本では2023年からEVシフトに向けた設備投資が本格化する」との見通しを立てている。
こうした産業変革の影響を真っ先に受けるとされるのが工作機械業界だ。製造業は、長期的な成長を見据えた投資として工作機械を導入するため、その受注動向は市況の先行指標となる。現に、日本に先行する海外のEVシフトの動きは、同業界の受注実績に反映され始めている(図2)。
日本メーカーの工作機械受注額は、史上最高となった2018年の約1兆8000億円をピークに2020年には半減した。需要低迷の背景は、読者の知るところ。2019年には米中貿易摩擦が設備投資にブレーキをかけ、翌2020年に新型コロナウイルス感染症拡大が追い打ちをかけた。
しかし、2021年に経済活動が再開されると設備投資が拡大。2022年の受注額はコロナ禍前の水準に回復する見込みだ。この驚異的な需要回復を支えた要因の1つがまさに、「海外を中心に急加速したEV関連の設備投資だ」(稲葉氏)という。
最初にEVシフトが活発化したのは中国だった。オークマ代表取締役社長の家城淳氏は、「中国ではEV部品の増産に対応すべく、製造ラインを垂直立ち上げするような製造現場が増えた」と、同国EV市場の成長の勢いを語る。設備投資の動きとしては米国、欧州がこれに続き、数年遅れる形で日本も踏み出そうとしているわけだ。