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 SBI生命保険はオンプレミス(自社所有)環境で稼働させていた「団信(団体信用生命保険)システム」をクラウドサービス上に移行し、2022年10月から運用を始めた。移行に要した期間は約4カ月。スムーズにクラウド移行できた理由を見ていこう。

「システムの中をマイクロサービス化した」

 「新商品を投入するサイクルが短くなり、法令などのルールに素早く対応する必要があった」――。同社の池山徹取締役兼執行役員(情報システム部・団体保険部担当)はクラウド移行の理由をこう振り返る。

 SBI生命は基幹業務システムの1つである団信システムと、全国の金融機関のシステムとの接続を進めている。金融機関が顧客に住宅ローンを融資する際、SBI生命の団信を付帯できるようにするためだ。現在、およそ80の金融機関とシステムを接続しているが、根強い住宅取得需要もあり「10以上の金融機関と今後接続する予定がある」(池山取締役)という。

 ただ、接続する金融機関が増えるとSBI生命側のシステムリソースも増やす必要がある。オンプレミス環境ではシステムリソースを増やすのに、サーバーなどの調達やネットワークの敷設、セキュリティー対策の追加などが手間が多い。

 商機を逃さずシステムリソースを素早く増やすため、SBI生命は団信システムをオンプレミス環境から米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス)のパブリッククラウド「Amazon Web Services(AWS)」上に移行することを決めた。ただクラウド移行には実現性や期間、コストなどの変動リスクがあり、自社の人的負担も大きい。

 こうした課題解決に役立ったのが、システム構築当初から進めていた部品化だった。SBI生命が現行の団信システムの構築に着手したのは2017年のこと。池山取締役は当時から「いずれクラウド環境での運用を見込んで開発を進めていた」と説明する。

 具体的には、フルスクラッチで開発する際、クラウドに移行しやすいよう機能ごとに部品化を進めていた。例えば契約管理の機能はContractMgm.jarモジュールにまとめる、月次業務はMonthlyMgmBatch.jarモジュールにまとめるといった具合に、機能ごとにJARファイルを構築した。

 この工夫により各機能を単独でクラウドに移行(リフト)しても稼働するようにできたわけだ。「構築当時はまだマイクロサービスという概念や言葉がさほど広まっていなかったが、システムの中をマイクロサービス化したようなものだ」(池山取締役)という。

団信システムのモジュール群
団信システムのモジュール群
(出所:SBI生命保険)
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 クラウド移行を決めたSBI生命は2022年6月からプロジェクトを開始。オンプレミス環境のJARファイルをAWS上に移行してテストすることを繰り返し、約4カ月という短期間でクラウド移行を成し遂げた。