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 RISC-Vはプロセッサーのオープンな命令セットである。命令セットの複雑さを取り除くという理想の基に作られた命令セットであるRISC(Reduced Instruction Set Computer)アーキテクチャーを採用する。そのRISC-Vを実行するCPUコア(プロセッサーの中核回路)をRISC-Vコアと呼ぶ。CPUコア市場を寡占する英Arm(アーム)の製品(以下、Armコア)に対抗するため、米University of California, Berkeley(カリフォルニア大学バークレー校)教授のKrste Asanović氏が中心になってRISC-Vは開発された。現在、RISC-V Internationalという非営利団体がRISC-Vの普及や管理を担っている。

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 Armコアはほとんどすべてのスマートフォン向けSoC(System on a Chip)に採用され、広く普及した。その後マイコンのCPUコアとしても業界標準となった。スマホSoCやマイコンで業界標準になった背景には、Armが命令セットを厳しく管理したことがある。これによってArmコア搭載のSoCやマイコンのソフトウエア互換性が高まり、利便性が向上した。ただし、管理が厳しいことの副作用もある。例えば、Armコアユーザー(主に半導体メーカー)での命令追加は許可されていないため、用途に必ずしも最適とは言えない。また、Armコアを使う際にはライセンス料やロイヤルティーをArmに支払う必要があり、それを賄えないために利用を諦める中小企業や大学もあった。

 Armコアにはもう1つ問題がある。CPUコア市場で業界標準となったことで、公共財のような存在となってしまったことだ。Armが特定の企業に買収されることに懸念が高まった。現在、Armはソフトバンクグループ(SBG)の傘下にあるが、SBGが半導体メーカーの米NVIDIA(エヌビディア)へのArm売却を試みた際には、その懸念が現実のものとなった。NVIDIAがArmの直接のユーザーであるため、NVIDIAと競合する複数の半導体メーカーや複数の政府から反対の声があがり、売却は中止に追い込まれた。