従来品よりも電力損失を大幅に削減できる窒化ガリウム(GaN)製のパワー半導体素子が進化している。最大の課題であるコストを低減する成果が、国内の大学や企業などから次々と登場してきた。シリコン(Si)並みのコストになれば、自動車や再生可能エネルギー、産業機器などの分野で一気に広がり、日本企業がGaNパワー素子で主導権を握れる。
GaNパワー素子は大きく2つある。1つはSiウエハー(基板)を利用した「GaN on Si(ガン・オン・シリコン)」だ。電流が横(水平)方向に流れるため、「横型」と呼ばれる。米国のスタートアップ企業を中心に製品化されており、スマートフォンやノートPC向けに小型・高出力をうたう高性能な電源アダプターなどに採用されている。
もう1つが、GaN基板を利用した「GaN on GaN(ガン・オン・ガン)」である。電流が縦(垂直)方向に流れるため、「縦型」と呼ばれる。縦型は、横型に比べて高電圧・大電流に適しており、電動車両や再生可能エネルギー、産業機器における電力変換器の電力損失を大幅に削減できると期待されている。
GaNと並んで期待されている次世代パワー半導体に、炭化ケイ素(SiC)がある。SiCパワー素子は既に一部の電気自動車(EV)や鉄道向けインバーター、太陽光発電システム向けパワーコンディショナー、産業用インバーターなどで採用が始まっている。だが、材料特性を考慮すると、縦型GaNパワー素子の方がSiCパワー素子に比べて電力損失削減に向くことから研究開発が盛んだ。
縦型GaNパワー素子を実用化するうえでの大きな課題は、コストが高いこと。特に作製に用いるGaN基板が高価である。そこで、同基板の大幅なコスト削減につながる研究開発が進んでいる。
先行するのは国内勢だ。2022年12月に米国サンフランシスコで開催された半導体分野の著名な国際学会「IEDM 2022」の招待講演で、名古屋大学大学院工学研究科教授の須田淳氏が登壇し、日本を中心とした縦型GaNパワー素子の研究開発成果を紹介した。