宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙科学研究所(ISAS)は2022年12月19日、超小型探査機「OMOTENASHI」の月着陸失敗について、探査機の姿勢を制御するスラスター(噴射で姿勢を変更する小型ロケット)の動作不良で姿勢を崩したことが原因と推定されると発表した。
OMOTENASHIは重量12.6kgの超小型探査機。米航空宇宙局(NASA)の有人月探査計画「アルテミス」用大型有人ロケット「SLS」(Space Launch System)初号機に搭載され、2022年11月16日に月に向けて打ち上げられた。超小型探査機による月着陸技術の実証が目的だった。当初予定では日本時間の2022年11月21日深夜から翌22日早朝に月面に着陸する予定だった。
しかし、SLSからの分離直後に探査機姿勢が乱れて太陽電池に太陽光が当たらない状態に陥ってしまい、電力を喪失。その後、2022年11月21日深夜に探査機は通信が回復できないまま月に最接近して通過。月着陸の機会を失った。
電波の受信強度データから、異常回転の経緯が判明
OMOTENASHIはSLSからの分離後、搭載スラスターを使って自動的に太陽電池を太陽に向ける姿勢に入り、電力を確保する設計だった。ところが打ち上げ直後、2022年11月16日夜の地上との通信で、太陽電池が太陽方向の反対を向いた姿勢で80度/秒という高速回転をしていると判明。地上から復帰のコマンドを送ったが、搭載バッテリーの電力が枯渇して、通信が途絶した。
その後JAXAは、2022年11月16日のOMOTENASHIとの通信を担当したNASAの深宇宙通信ネットワーク(DSN:Deep Space Network)から、通信の詳細データを入手し、解析を進めてきた。原因推定の手掛かりとなったのは、受信電波の強度データだった。
探査機姿勢が安定すると、電波の受信強度はほぼ一定となる。しかし、OMOTENASHIからの受信データでは、分離から3分ほどで一度受信強度が一定になった後、いきなり受信強度が大きく変動し始めた。しかも変動周期が5分にわたって加速していた。受信強度の変動は探査機側のアンテナ、すなわち探査機本体が回転していることを意味する。
これらから、[1]探査機はSLSからの分離後、一度は予定通りに太陽電池を太陽に向ける姿勢を確立した、[2]しかし姿勢確立終了からの5分間で姿勢を崩して高速で回転し始めた——と判明した。
この事実に基づいて、JAXAはトラブルを起こし得る部位を全部列挙して、1つひとつ確認していく「故障の木解析(FTA:Fault Tree Analysis)」を実施。その結果、「スラスターが何らかの誤動作をして予定外の噴射が発生し、姿勢が崩れた状態での高速回転に陥った」と推定した。