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力や触覚の伝送技術が実用化している。写真は、実物の物性データから仮想空間上の物体の感触を再現するデモ(写真:日経クロステック)
力や触覚の伝送技術が実用化している。写真は、実物の物性データから仮想空間上の物体の感触を再現するデモ(写真:日経クロステック)
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 ロボットが人間のように力加減できる技術が、製造業や医療の現場に普及しつつある。慶応義塾大学発のスタートアップ、モーションリブ(川崎市)は、力や触覚の伝送技術「リアルハプティクス」を企業に提供しており、一部では実用も始まった。グローバル企業との提携やコンソーシアム活動を通して、社会への普及を加速させていく。

 モーションリブは、リアルハプティクスに必要な制御チップの製造販売やライセンス提供を手掛けている。同技術をロボットなどに応用することで、これまで人の勘や経験に基づいていた繊細な作業や力加減を遠隔化・自動化できる。コンソーシアム活動を通して国内企業80社以上にチップを提供し、実用化に向けた支援を続けている。

 モーションリブ取締役COO(最高執行責任者)の緒方仁是氏は、「応用事例を増やしてビジネスとして成り立たせていく段階に入ってきた」と語る。すでに生産現場で実用事例があるほか、建設機械やごみ処理施設などで実証が進んでいる。医療向けでは新型コロナウイルスの検体を遠隔で採取できるシステムなども開発した。

ごみ溶融処理施設の遠隔作業をリアルハプティクスで効率化した(出所:日鉄エンジニアリング)
ごみ溶融処理施設の遠隔作業をリアルハプティクスで効率化した(出所:日鉄エンジニアリング)
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モーションリブなどが開発した遠隔PCR検体採取システム(出所:モーションリブ)
モーションリブなどが開発した遠隔PCR検体採取システム(出所:モーションリブ)
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 2022年6月末にはインド最大財閥タタ・グループのIT大手、Tata Consultancy Services(タタ・コンサルタンシー・サービシズ、TCS)と提携し、グローバル展開に弾みをつける狙いだ。TCSは世界46カ国で事業を展開しており、欧米市場などに多くの販路を持つ。製造業や医療、農業などTCSが多くの顧客を持つ分野にリアルハプティクスを提案・導入していく考えだ。

 TCSはソフトウエア開発やクラウド活用、IoT(モノのインターネット)などに強みを持ち、特にデジタルツイン分野で高い競争力を持つ。例えば、仮想空間に再現したモデルと、現実空間で取得した実データを組み合わせて、製品やプラントなどの寿命予測や評価検討につなげるシステムが挙げられる。デジタルとリアルを橋渡しする技術として、リアルハプティクスに期待を寄せる。

 TCS日本法人である日本タタ・コンサルタンシー・サービシズ(日本TCS)IoT&デジタルエンジニアリング統括本部ディレクターの藤永和也氏は、「TCSはデジタルエンジニアリングの領域で世界トップクラスの実力を持つ。リアルハプティクスとも親和性が高く、TCSのネットワークを生かして導入を支援していきたい」と語る。

日本TCSの藤永和也氏(左)と、慶応義塾大学の大西公平氏(写真:日経クロステック)
日本TCSの藤永和也氏(左)と、慶応義塾大学の大西公平氏(写真:日経クロステック)
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 AI(人工知能)を応用すればロボットがより人間に近い作業をできると見込む。多くのソフトエンジニアを擁するTCSと連携することで、リアルハプティクスの導入がグローバルで加速すると期待する。