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 2022年10月12日の打ち上げに失敗した小型衛星打ち上げ用ロケット「イプシロン」6号機。ロケット第2段燃焼終了後、3段分離と点火前の姿勢制御がうまくいかなかったため、地上から指令破壊コマンドを送信して飛行を中断した。

2022年10月12日に打ち上げられたイプシロンロケット6号機
2022年10月12日に打ち上げられたイプシロンロケット6号機
第2段が燃焼し終えたところで目標軌道への投入が困難と判断して指令破壊信号を送って破壊。打ち上げは失敗に終わった。(写真:JAXA)
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 開発を進めていた宇宙航空研究開発機構(JAXA)らは速やかに原因調査に着手。2022年末までに文部科学省の宇宙開発利用部会 調査・安全小委員会で5回にわたって打ち上げ失敗の原因調査状況について報告している。2022年12月16日の報告では、その原因を2つまで絞り込んだ。本稿では、この絞り込まれた原因について解説する。

なぜスラスターが正常に噴射しなかったのか

 イプシロンロケット6号機は先述した通り、2022年10月12日に鹿児島県のJAXA内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられたが、打ち上げは失敗に終わった。第2段に装備している「第2段ガスジェット装置(2段RCS)」という小型液体ロケットエンジン(スラスター)を噴射して姿勢制御を行うはずだったが、2基ある2段RCSうち、1基が正常に噴射しなかった結果、ロケットの姿勢が崩れたというところまでは判明している。問題は、なぜ1基が正常に噴射しなかったか、だ。

 2022年12月16日の報告によると、第2段の姿勢を制御する小推力の液体ロケット推進系で、[1]「パイロ弁」という弁の仕切り板が何か(現時点では不明)に引っ掛かった、[2]推進剤を搭載するタンク内のダイヤフラム(弾性膜)がタンクから推進剤出口に吸着された――のいずれかが原因となって推進剤が正常に噴射されず、打ち上げに失敗したという。今後、実際の環境を模擬した試験を実施して、事故原因を確定させる。

イプシロン6号機の第2段ガスジェット装置(2段RCS)の装備位置
イプシロン6号機の第2段ガスジェット装置(2段RCS)の装備位置
2段RCSは、第2段モーターのノズル横に取り付けてある。(出所:JAXA)
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第2段RCSの概要
第2段RCSの概要
+Y軸側と-Y軸側の2基が装着されている。事故原因となったのは+Y軸側の2段RCS。パイロ弁は打ち上げの途中(離床後約2分半後)にロケットの誘導制御を行う搭載コンピューター(OBC)からの命令により動作し、配管を開通させる。(出所:JAXA)
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 2基の2段RCSは、円筒形の第2段の180°反対方向に装備されており、それぞれ「+Y側RCS」「-Y側RCS」と呼ばれている。2段RCSは液体のヒドラジンを推進剤に使用する1液式スラスターで、+側と-側にそれぞれに4基、合計8基を装備している。噴射に失敗したのは+Y側RCSだ。