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 ITコンサルティング大手のアクセンチュアが、異例ともいえる高額のM&A(合併・買収)を日本で断行した。2022年9月29日にAI(人工知能)技術ベンチャーのALBERT(アルベルト)に対するTOB(株式公開買い付け)の実施を発表。同年11月15日にTOBが成立した。1株当たりの買い取り価格を直前の株価の2倍超である9180円と高額に設定したことで、市場関係者の注目を集めた。

 アクセンチュアが子会社化したアルベルトは、従業員の約8割に相当する約240人(2021年時点)をデータサイエンティストが占める。トヨタ自動車や東京海上日動火災保険などとの取引実績を持つ。

 IT人材のなかでも、AI(人工知能)システムを開発したり、高度なデータ分析を実施したりするデータサイエンティストの需要はとりわけ高い。多くの企業が人材確保にしのぎを削っている。業務実績が豊富なアルベルトのデータサイエンティスト集団は魅力的といえる。

(出所:アクセンチュア)
アルベルト買収を伝えるニュースリリース
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 とはいえ、アクセンチュアには既に数百人規模のデータサイエンティストが在籍しているとみられる。これだけ人数がいれば、高額の買収ではなく、業務提携という形でもよかったのではないか。事実、これまでもアクセンチュアはアルベルトと共同で多くのプロジェクトを推進してきた。なぜアクセンチュアは買収に踏み切ったのか。その理由をひもとく。

不安定な世の中だからこそデータで効果を証明する

 「データドリブンなコンサルティング案件を増やす」――。アクセンチュアの保科学世ビジネスコンサルティング本部AIグループ日本統括AIセンター長はアルベルト買収の理由の1つをこう説明する。データドリブンなコンサルティングとは、手掛けるプロジェクトの効果や価値をデータで証明しながらコンサルティングを実施することだという。

 「不安定な世の中だからこそデータドリブンが重要になる」(保科AIセンター長)という。不景気の足音が迫る今、効果が不確実なシステムやサービスでは導入をためらう企業は多い。こうした課題を解消するには、「データで効果を証明することが重要となる」(保科AIセンター長)。

 製造業のシステム開発を例に挙げれば、新しいシステムによって廃棄率や在庫数をどれだけ低減できるかなどを、予測モデルを構築してデータを基に説明する。定性的な効果よりも、実際に生み出せる利益や金額などを定量的に明示してコンサルティングするわけだ。

 今後アクセンチュアは、業界に知見を持つ専門のコンサルタントとデータサイエンティストの二人三脚でコンサルティング業務を行うという。保科AIセンター長は「ほぼすべてのコンサルティング案件をデータドリブンにする。現在はコンサルティング案件のうち約4割をデータドリブンで進めているが、これを8割にするのが目標だ」と説明する。