日経クロステックが指摘した業務用エアコンの省エネ不正のうち、三菱電機が調査報告書(以下、報告書)に最も長い反論文を載せたのが、定格冷房COP(エネルギー消費効率、以下、定格COP)値とAPF(通年エネルギー消費効率)値に関する技術的な矛盾に対してである(図1)。同社にとって最も突かれたくない不正だったのだろう。
結論から言って、この点に関する反論も技術的に成立していない。三菱電機の主張は物理式から逸脱しているからだ。物理法則に従わない工業製品は存在しない。あくまでも反論内容が正しいと主張するのなら、三菱電機は技術開発の会社という看板に自ら泥を塗ることになる。
日経クロステックは、10馬力(定格冷房能力28kW)の業務用エアコンにおいて、2013年に発売した高効率モデル「グランマルチ」(以下、2013年グランマルチ)と比較した2011年モデル(「シティマルチY GR〈高COPシリーズ〉」)の定格COP値とAPF値の技術的な矛盾を指摘した(図2、3)。
2013年グランマルチの定格COP値は「3.30」と、2011年モデルの「3.61」よりも低くなっている。その一方でAPF値は「5.6」と、逆に2011年モデルの「5.4」よりも高い。だが、これは技術的にあり得ないと日経クロステックは指摘した。なぜなら、2013年グランマルチは「従来比で約30%の(熱交換)効率アップ」(同社)を実現した新開発の「扁平(へんぺい)管熱交換器」を搭載しているからだ。加えて、定格COP値とAPF値は連動しており、APF値は定格COP値の半分程度で増減するからである。
COP値が低くAPF値が高いのは「計算通り」?
これについて三菱電機は報告書第2報および第3報で、2013年グランマルチは定格COP値よりもAPF値を優先した機種であり、日経クロステックの指摘は「誤りである」と反論した。報告書第2報にはこうある。
2013年グランマルチは、2011年モデルと比較して、「組込容積比(圧縮の前後での冷媒の容積の比率)が小さい圧縮機を使用している。そのため、定格能力の1点における冷房・暖房のエネルギー消費電力は、冷媒をより圧縮又は膨張させることができる」2011年モデル「の方が低く」、2011年モデルの方が「COP値は高くなる」。これに対して2013年グランマルチは、「冷媒を圧縮又は膨張しすぎないため、空気を冷やしすぎたり、暖めすぎたりすることがなく、1年間を通じて見た場合には、室温の上下のぶれが少ない効率的な運転ができ」、2011モデル「よりもAPF値は高くなる」(「 」内が報告書第2報からの抜粋)──。
加えて、報告書第3報では再検証を実施した結果、「COP値/APF値の偽装は存在しないことが確認された」と主張した。その上で、注記に次のように記載した。
2013年グランマルチは、2011年モデルと比較して定格COP値は「3.3%低いが、一方で、冷房中間COP(値=ほぼAPF値)は5.1%高い」、「要素部品の設計方法により、COP値とAPF値は必ずしも正方向に比例するとは限らず、結果としてAPF(値)は高くなることが確認された」(「 」内が報告書第3報からの抜粋、図4)──。
三菱電機の反論内容を整理すると、[1]定格COP値は2013年グランマルチの方が低い[2]APF値を優先した設計だから2013年グランマルチの定格COP値が2011年モデルよりも下がって逆にAPF値が上がる──というのは「計算通りであり不自然ではない」(報告書第3報)というものである。
だが、いずれも技術的に誤っている。理由は、エアコン設計の基本式である「熱交換量の式」と「気体の状態方程式」に反しているからだ(図5)。