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 政府は治療に用いるアプリやAI(人工知能)診断支援システムなどを医療機器として早期承認する新制度を導入する方針だ。安全性を満たして最低限の有効性を有することが分かれば、治験を省略してまずは医療現場で利用するケースを認め、十分な効果を確認してから本承認する2段階承認制度を検討する。長い場合で5年以上とされる市場投入までの期間を1年以内に短縮することを目指す。

 岸田文雄首相の諮問機関である規制改革推進会議が2022年12月22日にまとめた中間答申で方針を示し、厚生労働省が具体的に検討を進めることで両者が合意した。2023年度中に結論を出し、2024年度にも導入する方針だ。

 新制度では医療現場で集めた診療データを治験の代わりに提出できたり、治療効果を確認した2段階目の承認後に診療報酬を引き上げたりする制度も検討する。治験だけで数億円かかるとされる医療用製品開発にのしかかる投資を引き下げて、新たな開発企業が参入しやすい環境を整備する狙いである。

これまでのプログラム医療機器の審査簡略化は看板倒れか

 治療用アプリやAI診断支援などの医療用ソフトウエアは、プログラム医療機器(Software as a Medical Device:SaMD)と呼ばれる。禁煙や高血圧向けなど生活習慣を改善させる治療用アプリは人体へのリスクが医薬品などより低く、AIも医師が診断の補助手段に使う。欧米ではリスクが低いSaMDの特性を踏まえて簡易な審査制度の導入が進みつつあり、医療現場で使える段階にある製品が急速に増えているという。

CureAppの高血圧症を対象とした治療用アプリ
CureAppの高血圧症を対象とした治療用アプリ
(出所:CureApp)
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 例えばドイツは早期承認された治療用アプリにも公的医療保険を適用できる制度を2019年末に導入し、2020年3月以降では157件のアプリが承認を申請済みだ(規制改革推進会議事務局調べ)。米国でも数百のアプリが医療用に利用されているという。日本ではSaMDのうち治療用アプリについては承認済み製品が2つにとどまっている。

 厚労省もSaMDの開発を促す審査体制を取ってきた。開発企業向けの相談窓口を置き、承認を得たSaMDのバージョンアップ版については、ソフトウエアの変更内容を事前に国の審査機関である医薬品医療機器総合機構(PMDA)に確認してもらうことで期間の短縮を狙った制度「IDATEN(Improvement Design within Approval for Timely Evaluation and Notice)」を2020年9月に立ち上げた。

 しかし開発企業からは、「イダテン」という読み方にそぐわないほど「実際にはバージョンアップの審査が迅速ではない」(SaMDを開発する企業)という声が漏れている。製品分野によっては審査の迅速化が看板倒れになっているとの指摘がある。