LINEアプリを用いた住民票の交付は適法ではない――。2022年12月、自治体向けシステム開発に強みを持つBot Express(東京・港区)がLINEアプリを用いて住民票を交付する際の本人確認の手法が適法だと求めた訴訟で、東京地裁は請求を退ける判決を言い渡した。判決により、今後オンラインで住民票を請求する場合はマイナンバーカードを利用した本人確認が必要となる。
総務省は2021年に省令を改正
Bot Expressは、スマートフォンで撮影した顔写真付き身分証とスマホのカメラで写した本人の容貌を送信、AI(人工知能)がそれらを照合し、本人と確認されれば住民票の写しを後日郵送する。AIによる判別がつかなかった場合は自治体職員が目視で確認して、住民票を提供していた。金融機関で顧客が口座開設の際に利用するなど、オンラインで身元確認が完結する「eKYC(electronic Know Your Customer)」と呼ばれる手法と同じだ。渋谷区は2020年4月に同サービスを採用した住民票のオンライン申請を始めていた。
しかし同サービスの開始直後、総務省が「待った」をかけた。2020年4月3日に全国の自治体への「技術的助言」として、事実上同サービスを採用しないよう求める通知を出した。住民票の交付には厳格な本人確認が必要であり、マイナンバーカードに搭載した電子署名よりも劣るeKYCの採用は「適切でない」という内容だ。
Bot Expressは総務省の通知により、他の自治体へのサービス展開が事実上できない状況にあると主張し、同通知が違法であると提訴した。
総務省は2021年9月、住民票の写しの交付に関連する省令(住民基本台帳の一部の写しの閲覧並びに住民票の写し等及び除票の写し等の交付に関する省令の一部を改正する省令)を改正し、本人確認にマイナンバーカードを使った電子署名を求めるものとした。渋谷区の同サービスは法令違反とする規定を設け、同サービスは中止に追い込まれた。