視聴者の反応から情動をAI(人工知能)技術で推定し、リリース前の映像作品の評価や制作に生かす――。そんな情動推定システムをソニーグループ(ソニーG)の企業が開発し、映像制作での利用が広がっている。映像分野を端緒に、ゲーム制作やマーケティングといったさまざまな分野でAIによる情動分析技術の需要が拡大しそうだ。
従来は、視聴者が見終わった後に紙のアンケートに答えてもらったり、一部の人にグループインタビューを実施したりして、評価を得ていた。映像作品の全体の評価は得られるが、シーンや台詞(せりふ)ごとの感想など詳細な情報を得るのは難しかった。何より、タイムラインに沿った視聴者の直接的な反応を知ることができなかった。
そこで、ソニーGは視聴者の情動を推定できるシステムの運用を開始した。米Sony Corporation of America(ソニー・コーポレーション・オブ・アメリカ)とインドSony India Software Center(ソニー・インディア・ソフトウエア・センター)が開発した「Viewing eXperience(VX)」システムがそれである。既存の評価法を補完するツールという位置付けだ。
動画配信サービスを手掛けるプラットフォーマーであれば、視聴者のプロファイルはもちろん、それぞれの視聴者がどのようなコンテンツをどれぐらい見たのか、どのシーンを飛ばしたのか、どこで一時停止したかといったデータを取れる。それに対し、VXシステムはタイムラインに沿った視聴者の情動を推定できることが大きな特徴だ。
まず、ソニーGの映画事業会社である米Sony Pictures Entertainment(ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント、SPE)が2018年にVXシステムの利用を始めた。2021年からは外部の試写会運営企業と連携し、SPE以外のコンテンツの試写会でも利用している。2022年はSPEとそれ以外の作品を合わせて、およそ80作品の評価に利用したという。映画だけではなく、テレビ番組などでも使っている。
VXシステムでは、コンテンツのどの部分が観客に受け入れられているか、またそれが意図した演出と合致しているかなどを確認する機会をクリエーター側に提供する。作品全体で、盛り上がりのバランスが取れているかを視認することにも利用できる。
評価結果を基に、ストーリーや編集、シーンの長さを変えるなどの調整を行う。主に作品の正式公開前にVXシステムを利用するが、続編の制作に向けて前作を評価する場合に利用することもある。
映画の予告編など宣伝用のダイジェスト版の制作にも利用できる。盛り上がったシーンだけをつなぎ合わせれば、印象的なダイジェスト版を効率的に制作できる。