日本航空(JAL)で全社的なデータ分析・活用が加速している。2019年7月に全社的に導入した米Tableau Software(タブローソフトウエア)のビジネスインテリジェンス(BI)ツール「Tableau(タブロー)」のユーザーは、2023年1月時点で1794人とグループ全体の20分の1程度まで拡大。自前でダッシュボードの作成などをこなせる「Tableau Creator」と呼ばれる多機能ライセンスを契約するユーザーも95人に増えている。
JALの取り組みで特筆すべきは、そうした全社的なデータ活用の推進役を担うプロジェクトチームの存在だ。しかも同チームのルーツは、社員の1人が2018年にひっそり始めた社内有志による非公式の草の根活動だったという経緯がある。そこからわずか3年ほどで全社規模のデータ活用推進の取り組みへと昇華するまでに、どのように周囲を巻き込んで機運を盛り上げていったのか。
JALでは特定の部門・部署限定ではなく全社規模でTableauを導入し、日々の業務にデータを活用している。具体的には、例えば整備子会社のJALエンジニアリングでは故障予測、CX(顧客体験)部門では顧客満足を測定するスコアの分析、運航部門では安全管理や運航品質の管理に向けた飛行データの分析、人事部門では2年に1回実施するES(従業員満足)調査の分析、といった具合だ。
そうした各部門・部署のデータ活用を陰で支えているのが「DANCU(Data ANalytics and Culture Unit:ダンク)」と呼ぶ、データ活用の推進役となる全社横断的なプロジェクトチームだ。データ活用のできる社員を幅広く育て、全社規模でデータ活用の機運を醸成し成果につなげることを目指す組織である。
DANCUは部署ではなくプロジェクトチームだ。Tableauをはじめとするデータ活用について高いスキルを持つ社員が様々な部署から手を挙げ、各部署との兼任で参加する。メンバーは勤務時間の2割程度をDANCUの活動に充てる形で役割を担っている。現在は35人のメンバーから成り、ITやマーケティングなど事務系の社員だけでなく、運航乗務員や客室乗務員、整備といった航空輸送の最前線を担う各部門の社員も含まれる。
DANCUの活動領域は大きく分けて6つある。具体的には「分析実践」「スキルアップ」「広報」「データライブラリー」「社外連携」「その他」だ。例えば「分析実践」ではメンバーの高いデータ分析スキルを生かし、各部署の一般社員によるセルフサービスBIを支援したり、高度なデータ分析を担ったりする。「データライブラリー」では社内のデータや社外のオープンデータを集めたり、データカタログを整備したりする。「社外連携」はデータ活用を手掛ける他社の社員と交流したり、データ活用関連のイベントに参加したりする。
「スキルアップ」で特筆すべきなのは、Tableauのユーザー同士が「師弟」となってTableauの高度な活用方法を伝授する無償学習プログラム「DATA Saber(データセーバー)」への参加だ。DANCUのコアメンバーが師匠役を務めて育てるなどして、DATA Saber認定者となったJALグループの社員は18人いる。