中部電力は健康経営の一環として、従業員に対して米Google(グーグル)子会社の米Fitbit(フィットビット)のウエアラブルデバイスである「Fitbit」を配布している。自分の健康データを見える化することで、健康維持・増進に向けた行動変容につなげてもらうのが主な狙いだ。ただ利用し続けるうちに、Fitbitは健康面以外でも経営に貢献すると分かってきた。
「健康な人を置き去りにしてしまっていた」
中電がFitbitを配布したのは2022年2月から同年3月にかけてのこと。中電、中部電力パワーグリッド、中部電力ミライズのグループ3社の全従業員約1万5000人が配布対象で、9割超に当たる約1万4000人が実際に受け取った。導入の最大の目的は従業員の健康の維持・増進だ。中電はかねて健康経営に力を入れており、約50人の産業保健スタッフが全従業員に対して個別に保健指導をしたり、人間ドックの全員受診化を推進したりしてきた。
これらの施策は病気になってしまった人をケアしたり、病気を早期発見したりするのに役立っている半面、「健康な人を置き去りにしてしまっていた」(中電の伴真由子安全健康推進室健康増進グループ主任)。健康な人を含む全従業員を対象とした投資として選択肢に上がったのがウエアラブルデバイスだった。
配布したのはFitbitの「Luxe」という機種で、公式サイトにおける価格は1万6800円(税込み)。Luxe はトラッカーと呼ばれるタイプで、スマートウオッチタイプの「Sense」シリーズや「Versa」シリーズに比べて小型で身体データを収集する機能に特化している。機能面のほか、お気に入りの腕時計と同時に着用しても邪魔にならないサイズだったことなどが選定理由となった。
着けたい人だけ着け、会社とのデータ連携は希望者のみ
導入に当たって中電が意識したのは、従業員がFitbitを使ううえでの心理的ハードルを下げることだ。取り組みを推進した安全健康推進室は2020年に人事部門から独立した、社長直下の健康経営推進専任部署である。同室健康増進グループの羽岡剛グループ長は「人事部門から配布するとなると、(データを評価に使われるのではないかと)社員も身構えてしまう。人事から独立した安全健康推進室が推進したことがスムーズに導入できた一因ではないか」と振り返る。
心理的ハードルを下げる工夫はもう1つある。Fitbitはあくまで個人の健康を支援するツールであるとして配布し、「着けたい人は着けてください」というスタンスを貫いていることだ。受け取ったとしても着用は義務ではなく、会社側とのデータ連携は本人が同意した場合のみとしている。会社が人材への投資として配布している以上、測定した健康データを収集して経営に活用することは当然のように思われるが、あえてそれを前面に押し出さずに個人での活用を優先させた格好だ。
伴主任はこうした「(会社が使用を強制するのではなく)使いたい人にもあまり関心のない人にも配るという姿勢が、会社が本当に健康経営に力を入れるのだという本気度を伝えるメッセージになったのではないか」と語る。結果的には全従業員の半数以上が会社側とのデータ連携に同意しており、今後個人を特定できない形で分析し経営に生かしていく方針だ。なお、中電としてはFitbitの他の機種や、米Apple(アップル)や米Garmin(ガーミン)などのスマートウオッチなどともデータ連携できるシステムを整えているという。