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【質問5】 新制度は電力の安定供給確保のためとのことですが、落札案件の運転開始が遅れてしまうと、制度が期待した安定供給の役割が果たされません。運転開始の遅れに対してはペナルティーが課されるのでしょうか。

【回答5】 運転開始の遅れに関しては、2種類の仕組みが用意されています。まず1つめの仕組みとして、電源ごとに供給開始期限があらかじめ設定されており、実際の供給開始時期が所定の供給開始期限を超えてしまった場合は、新制度による容量支払を受ける期間が短縮されます。この点はFIT・FIP制度における運転開始期限の制度に似ています。ただし、短縮された期間については、容量市場メインオークションの落札価格による容量支払が受けられることになっています。

 供給開始期限は年度単位で設定されます。例えば、「供給力提供開始期限4年」の蓄電池新設案件が2023年度に新制度を落札した場合、4年後の2027年度末日(2028年3月31日)が開始期限です。この日までに供給を開始すれば問題ありませんが、もし2028年4月1日以降の供給開始となる場合は、新制度による容量支払を受けられる期間が年単位で短縮されます。

遅延が明らかになった時期でペナルティーは異なる

 これとは別に、運転開始の遅れに関しては経済的ペナルティーの制度も用意されています。供給開始時期が、落札事業者自身が入札時に定めた供給開始予定時期から遅延してしまった場合、遅延の期間や遅延が決定した時期に応じて経済的ペナルティーが課されます。

 まず、供給開始年度が遅延した場合、変更後の供給開始年度は新制度における容量支払は受けられず、代わりに現行容量市場のメインオークションに参加したものとみなされ、メインオークションにおける供給未達があれば現行容量市場の制度に従いペナルティーが課されます。

 供給開始の遅れによって新制度が想定していた供給力が確保できない年度については、現行容量市場のメインオークションや追加オークションで不足する供給力を確保します。前年度に実施される追加オークションに間に合わない場合、メインオークションの落札価格の10%がペナルティーとして課されます。追加オークションには間に合うものの、4年前に実施されるメインオークションに間に合わない場合は、メインオークションの落札価格の5%をペナルティーとして課されます。

 メインオークションに間に合った場合は 経済的ペナルティーの対象とはなりません。新制度の入札に参加した電源は、容量市場メインオークションおよび追加オークションの募集容量の算定から控除されます。このため新制度の落札電源が供給開始の遅延によって現行容量市場の募集容量算定の前提に悪影響を及ぼさないよう、ペナルティーによる抑止を図っているのです。

 このように、新制度における運転開始遅延は、FIT・FIP制度における運転開始期限の経過や、現行容量市場におけるペナルティーとは異なる仕組みとなっています。事業者の収益への影響が非常に大きいため、事業計画を着実に遂行するための力量がより一層重要です。

川本 周(かわもと・あまね)
西村あさひ法律事務所・弁護士
2006年弁護士登録。西村ときわ法律事務所(現西村あさひ法律事務所)入所。電力ガス・プラクティスチーム所属。2013年から2年間、日系商社のロンドン子会社にて発電プロジェクトに従事。業務分野はプロジェクトファイナンス、証券化/流動化、電気・ガス事業など。