「2008年のリーマン・ショックを思い出してほしい」──。2023年3月期(2022年度)第3四半期の決算で大幅な下方修正を発表した日本電産。通期の営業利益予想を1000億円も引き下げた*。決算発表(2023年1月24日)の席で同社の永守重信会長兼最高経営責任者(CEO)は景気の悪化について警告を発した。
今回の日本電産の決算はこうした業績の下方修正に加えて、電動アクスル事業の戦略をシェア重視から収益志向に変えたり、成熟事業から新規事業へ軸足を移したりと大きな転換点となった。そのことは永守会長の発言からうかがい知れる。会見における同会長の言葉を拾ってみよう。
構造改革は「営業利益率20%のため」
日本電産が決算内容を一通り説明した後、永守会長は次のように総括した。
永守会長:今回の決算内容にはびっくりしたと思う。2023年7月に日本電産は創業50周年を迎える。この50年間でたまった小さな垢(あか)がある。例えば、寮を造ったが使っていないといった細かいものがある一方で、大きなものもある。外部から来た前経営陣が好き放題に経営して、大きな負の遺産をつくって去っていった。それによって生じたいろいろなゴミを、今期中に全てきれいにしてしまおうと考えている。
バランスシート上に課題を何1つ残さないつもりだ。その上で2023年4月には新たに5人の副社長を選び、翌2024年には新社長を就任させる。その門出において、これは残さない方がよいと少しでも思うものは全て今期中に始末する。
第4四半期までに、構造改革費用として500億円を使おうと考えている。(固定費構造改革として打ち出した)「WPR-X」は、営業利益率が20%まで持ち上がる固定費構造にするのが最大の狙いだ。
2023年4月には社名をニデック(Nidec)に変える。グループ企業も「ニデック○○」という名前になる。グループ企業を含めて従業員の待遇を均一化し、人事異動をしやすくする。これにより、多忙な所にそうでない所から人材を回して全体の労務費を下げる。こうして収益構造を抜本的に変えていく。
収益性が落ちてきたHDD(ハードディスクドライブ)用モーター(主軸モーター)事業においては、工場や機械装置などを含めて全て減らしていく。WPR-Xは、荷物になるものを来期(2023年度)以降に持ち越さないことを前提とした固定費構造改革である。
一方で、新しい事業が育ってきている。(事業の主力は)縮小に向かう過去の事業から新しい事業に変化している。今期(2022年度)の売上高も2兆2000億円まで伸びる予想だ。売り上げそのものに大きな懸念はない。力強い成長は続いていく。企業の買収も引き続き行っていく。
会計的に問題があり、それを今出してきて(下方修正になった)わけではない。昨年(2022年)にいろいろな雑誌で書かれた「嘘八百」の内容通りに我々がやっているわけではないので安心してほしい──。
この後は質疑応答に入り、いつも通りの永守節を響かせた。
下方修正の主因は欧州における車載事業
構造改革の理由として、欧州市場での車載事業を中心とした経営スピードが遅かったという説明がありました。具体的にはどのような問題が発生したのでしょうか。
永守会長:欧州市場で問題が起きた時に処理するスピードがとにかく遅かった。(前経営陣が)すぐに顧客の所へ行かない、工場にも出向かないなど、我々が常日ごろ言っている「現場・現物・現実主義」が全く行われていなかった。そのため、さまざまな問題が処理されずに放置された。
品質問題1つを取っても、問題が起きた時にすぐに対処すれば問題は大きくならない。だが、それを放置すると腐ってきて、問題が非常に大きくなる。そして、顧客に大変な迷惑を掛けてしまう。開発にしても、多くの資金を使っているのだから、完結するまできちんとトップが指揮を執らなければならない。その開発を放置すると損失が膨らんでしまう。
日本電産の基本的な姿勢は「すぐやる、必ずやる、できるまでやる」というものであり、それが強い行動指針になっている。問題を半年も1年も放置すれば、どんなものでも腐って悪臭を放ち、誰もそれを直すことができない状況に陥ってしまう。今回はそうなってしまったことが大きな損害(業績の下方修正)の主因だ。
企業文化は小部博志社長が就任して以来、元に戻す努力をしている。特に車載事業だ。他のところはあまり影響を受けていない。現場に行き、車載事業における時間軸の速さ(遅さ)や行動指針をもう一度しっかりと指導した。現在は7割くらいまで戻ってきたのではないかと思っている。(2023年)3月末くらいにはきちんと元通りになると考えている。