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 業務システムの中でも特に「守り」のシステム開発・運用が多い生産管理システムにも、2023年はクラウドサービスや量子コンピューティングといった新しい技術の波が押し寄せそうだ。ビジネスエンジニアリングは2023年4月からSaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)の新製品「mcframe X」を投入する。NECは3月から製造子会社の生産計画システムに量子コンピューティング技術の適用を開始する。

 一般に生産管理システムは、企業の業務システムの中で特に安定稼働が望まれる傾向にある。生産管理は企業ごとに業務プロセスが大きく異なるため、パッケージソフトを利用して構築するとしても、カスタマイズが多くなりがちで、バージョンアップや再構築が難しいからだ。工場の設備を制御するシステムと連係して動作することも多く、システムに不具合が発生すれば工場が停止する可能性もある。

 そのため、これまでの生産管理システムは「なるべく再構築を避け、安定稼働を優先する」というのが常識だった。DX(デジタルトランスフォーメーション)が多くの企業の課題になっている今、DXを後押しする新しい技術を導入するための選択肢が増えたことは、そうした「守り」の姿勢が変わり始めていることを示しているといえそうだ。

 mcframe Xを提供するビジネスエンジニアリングは、1996年からオンプレミス型の生産管理ソフト「mcframe」シリーズを開発・販売している。mcframe Xは、「オンプレミス型のmcframeのデータモデルやビジネスロジックなどを踏まえながら、継続的な機能のアップデートや他のSaaSと連係するためのAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)といったクラウド関連技術を取り入れた新製品だ」とビジネスエンジニアリング プロダクトコンサルティング部mcframe Xプロダクトマーケティングマネージャの吉原一記部長は話す。

 企業ごとに差異の大きい帳票や画面のカスタマイズに対応するために、ドラッグ・アンド・ドロップによる操作も可能なローコード開発ツールを用意する。プログラミングで開発できる、新規テーブルなどの追加が可能なツールも提供する見込みだ。「オンプレミス型の生産管理ソフトの導入経験から、これらの開発ツールを用意すれば生産管理領域でもSaaSを適用できると判断した」(吉原部長)という。

「mcframe X」の全体像
「mcframe X」の全体像
(出所:ビジネスエンジニアリング)
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 2023年中は数社の顧客と組んでPoC(概念実証)を実施し、2024年から拡販する方針だ。PoCを共同実施する企業は当初、新規顧客を想定している。オーナーが強いリーダーシップを持ってDXを目指す企業などで導入を進め、導入ノウハウなどを蓄積していく。「価格設定や2024年以降の販売計画なども、PoCを通じて見極めていく」(吉原部長)方針だ。生産管理領域でのSaaS採用企業が少ないことから慎重に販売を進める。

 「mcframeの主なターゲットである日本の中堅中小企業がSaaSを採用するかどうか当社内でも議論があった。顧客の不安を感じていたからだ」と吉原部長は説明する。mcframeを導入した企業はバージョンアップをせずに10~15年利用し続けることが多いという。そのためオンプレミス版のmcframeは導入した時点のバージョンの保守を永久に持続する「永続保守」の方針を採用しているほどだ。一方で「DXやAI(人工知能)など新たなITの変化を採り入れたいという声も聞くようになった」(吉原部長)ことから、SaaSも提供に踏み切った。