日産自動車の中型ミニバン「セレナ」の全面改良車は、シリーズ式ハイブリッド機構「e-POWER」搭載車のボディー骨格に低炭素鋼材(以下、グリーン鋼材)を使用し、骨格部品の製造工程における二酸化炭素(CO2)の排出量を減らした。また同鋼材を使いながら、先代車のプラットフォーム(PF)を改良して、全方位(前面・側面・後面)の衝突安全に対応した。
e-POWERを搭載する全面改良車は日産車として初めて、神戸製鋼所が造ったグリーン鋼材をボディー骨格に使用する(図1)。具体的な適用部品について日産は、「マスバランス方式を採用しているため、基本的にはどの骨格部品にも採用できる」とする。
神戸製鋼が生産するグリーン鋼材「Kobenable Steel(コベナブル・スチール)」は、同社が保有する「MIDREX(ミドレックス)」技術を用いて、従来品と同等の品質を実現しながら、製造工程の高炉から排出されるCO2を20%減らした素材である。
また、前述したマスバランス方式を適用することで、英国の第三者機関から「CO2排出量100%削減」の認定を受けている。通常の鋼材に比べて材料コストは増えるが、骨格部品の製造工程におけるCO2排出量削減を重視して採用を決めた。
日仏3社連合の共用PFは使わず
日産は日仏3社連合の共用PF「CMF-C/D」を、中型SUV(多目的スポーツ車)の新型「エクストレイル」などに適用しているが、e-POWER搭載車を含むセレナの全面改良車(以下、新型車)には同PFを適用しなかった。中型ミニバン向けの先代車のPF「C-MPV」を改良して使用した。
その理由について同社は、「ミニバンは床を平らにする必要があるため」と説明する。ただ、ステアリングシステムやフロント・サスペンション・メンバーなどCMF-C/Dで採用している部品を最大限活用したと明かす。
新型車は床を平らにする必要があることに加えて、スライドドアを装備する。また、3ナンバー車と5ナンバー車を用意した。3社連合の共用PFを使おうとすると変更すべき点が多いため、中型ミニバン向けのPFを改良した方が合理的だったようだ。
中型ミニバン向けの改良PFを適用した新型車の衝突安全に対する基本的な考え方を見ると、前面衝突と後面衝突では、車両前後のボディー骨格を「衝突荷重の吸収ゾーン」と「保護ゾーン」に分けて、衝突荷重を効率的に吸収する。側面衝突では、車両中央の骨格を強化して、キャビン(乗員室)を変形させないようにする。
こうした考え方に基づき前面衝突への対応では、衝突荷重の伝達経路(ロードパス)を主に2つ設けた。1つ目はフロント・サイド・メンバーからダッシュクロス、床下メンバーにつながる部分、2つ目はフロント・サスペンション・メンバーから床下メンバーにつながる部分である(図2)。