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 結果を出す経営トップは今、何をどのように考えているのか──。わずか3年半でオリンパスを営業利益率20%水準の高収益企業へと変えた同社の竹内康雄社長兼最高経営責任者(CEO)(以下、竹内社長、図1)。企業変革を唱える日本企業は多いが、ここまで速く成果が出るケースはまれだ。その経営手腕に迫るべく、日経クロステックは竹内社長を直撃した。「企業変革 編」の今回は、竹内社長が企業変革プラン「Transform Olympus(トランスフォームオリンパス)」をなぜ成功に導けたのか、抵抗勢力はいなかったのか、そして次の課題は何かなどについて聞いた。

図1 オリンパスの竹内社長
図1 オリンパスの竹内社長
企業変革により、3年半でオリンパスを営業利益率20%水準の高収益企業へと変えた。2023年3月期(2022年度)の営業利益率は20%を超える見込み。(出所:日経クロステック、写真:オリンパス)
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企業変革を必要とした理由

2019年に企業変革プランとしてトランスフォームオリンパスを打ち出しました。なぜ企業変革が必要だったのでしょうか。

竹内社長:私はこの会社で長く働いている。現在の形のトランスフォーメーション(企業変革)をはっきりと思い描いていたわけではないが、40年ほど前にその必要性を感じ、どのようなトランスフォーメーションが望ましいかと考え続けてきた。

 オリンパスは海外売上比率が50%を軽く超えているのに、全てのものづくりを日本で行い、全ての戦略を日本人が考えていた。40年ほど前に私は海外赴任を経験し、海外から冷静にオリンパスという会社を見る機会を得た。その時に、「今のやり方は本当にグローバル(企業の経営)と呼べるのだろうか」と疑問に思った。この時に感じた疑問がトランスフォーメーションの礎となった。その後もいろいろな場所に行ってさまざまな仕事に取り組む中で、トランスフォーメーションが必要だという思いを強めていった。

図2 企業変革「トランスフォームオリンパス」による事業の絞り込み
図2 企業変革「トランスフォームオリンパス」による事業の絞り込み
「超選択と集中」により、デジタルカメラなどを扱う映像事業と顕微鏡などを扱う科学事業を売却し、営業利益率の高い医療事業に絞り込んだ。その医療事業も、従来は病院の診療科ごとに分かれていた事業を、内視鏡事業と治療機器事業の2つに集約させている。(出所:日経クロステック)
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 当社はかつて不祥事(「オリンパス事件」)を起こしたが、これはトランスフォーメーションとは無関係だ。不祥事は一部の人間が行ったことで、事業そのものが毀損されたわけではない。そこで、改めて事業をどのようにすればサステナブル(持続可能)であり、企業価値を持続できるかと考えたところ、「技術発の会社だけで本当によいのか」と疑問に感じるに至った。

 確かにオリンパスは技術発の会社だ。技術を転用して顕微鏡(科学)事業からカメラ(映像)事業、そして内視鏡事業を立ち上げてきた。だが、実はそれらの事業間にはそれほど関連性がなかった。本当にこうした技術発の会社で永久に経営できるのか。サステナビリティーを考えれば、事業を絞り込んでその事業の価値を高めていく方がよいのではないかと考えた。

 技術発だけでうまくいっている会社はあまりないように思う。自分が知っている範囲ではソニーグループぐらいではないか。ビジネスでは市場との関係や顧客との関係に対してコンペティション(競争)が起こる。そうした競争においてどのように差異化すべきかと考えると、やはり、事業を絞らないと(競争力が)薄まって(弱まって)しまう。そう考えると、あまり手広く事業はできないはずだ。

 こうした考えから、オリンパスでは事業をどこかにフォーカスし、強みをさらに強めていく方がよいのではないかという結論に至った(図2)。そこで、いろいろな意味でガバナンス(企業統治)を強化し、事業を絞り込んでグローバルでの競争力を高めるためにトランスフォーメーションを打ち出したというわけだ。

高収益の顕微鏡事業を手放した理由

事業に対して「超選択と集中」を断行しました。赤字に苦しんでいたデジタルカメラを担う映像事業の売却はまだ理解できなくはありません。しかし、利益率の高い顕微鏡などを扱う科学事業まで売却して医療事業に絞り込んだことには驚きました*1。この決断の理由を教えてください。

*1 科学事業の2022年3月期(2021年度)時点での売上高は全体の14%程度。売上高の約85%を占める医療事業と比較すると事業規模は小さい。

竹内社長:格好良い言い方をすれば、過去のことを振り返ってどうするかということよりも、フォワード・ルッキング(先を見越すこと)を考えているからだ。過去にその事業がどうだったかではなく、将来的にその事業がどうなるか、その事業をどうするか、という観点で経営判断を下している。

 (事業売却に関しては)私が意思決定した(図3)。(手放した)基本的な理由は、映像事業も科学事業も変わらない。判断基準は「このままその事業がこの会社にあり続けて成長できるか否か」に尽きる。

図3 オリンパスが手放した映像事業と科学事業
図3 オリンパスが手放した映像事業と科学事業
両事業ともオリンパスから切り離した方が事業としての持続可能性や成長性があると竹内社長は判断した。(出所:オリンパスの写真を基に日経クロステックが作成)
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 映像事業については、オリンパスがあのまま続けていたらどこかでたたむことになるだろう。事業をたためば製品とサービスを提供できなくなってしまい、世界中の多くの顧客に迷惑を掛けてしまう。それは大きな裏切り行為だ。

 そこで、方向は少し変わっても(オリンパスでは扱わなくても)ブランドが変わるだけで事業が継続する*2方がよいと考えた。すなわち、オーナー(会社)が代わっても事業は生き続けるという選択の方が、社員にとってもその他のステークホルダー(利害関係者)にとってもよいだろうと考えたのである。

 科学事業も同様だ。実は、我々が考え始めた医療の方向性を踏まえると、科学事業を持ったままでも「グローバル・メドテックカンパニー(世界レベルの医療機器メーカー)」になる目標は達成できると思う。そもそも事業のポートフォリオが違うが故に外すという単純な考え方を私はしていない。だが、医療事業をグローバルに強化していかなければならない中では、科学事業に十分な投資ができなくなる。すると、科学事業はせっかく伸びるのに伸びなくなってしまうと考えて科学事業を手放したのだ。

*2 デジタルカメラは現在、OMデジタルソリューションズ(東京都八王子市)が「OM SYSTEM(オーエム システム)」というブランドで展開している。