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 結果を出す経営トップは今、何をどのように考えているのか──。わずか3年半でオリンパスを高収益企業へと変えた同社の竹内康雄社長兼最高経営責任者(CEO)(以下、竹内社長、図1)。企業変革を唱える日本企業は多いが、ここまで速く成果を出せるケースはまれだ。その経営手腕に迫るべく日経クロステックは竹内社長を直撃した。「米中貿易摩擦 編」の今回は、米中の対立激化によって地政学リスクが色濃くなった中国市場をどのように捉えるかについて聞いた。

図1 オリンパスの竹内社長
図1 オリンパスの竹内社長
ビジネスチャンスが見込める一方で地政学リスクもある中国市場を竹内社長はどう捉えるか。(出所:日経クロステック、写真:オリンパス)
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米中貿易摩擦によって地政学リスクが高まっています。オリンパスにとってはどのようなリスクがありますか。

竹内社長:先が見えないのが今の世の中だ。従って、これがリスクだと言い切るのは難しい。確かに、中国市場には当社に限らずリスクがある。どのように変化するかが分からないからだ。

 例えば、新型コロナウイルス感染症への対策でもゼロコロナ政策をとっていたのが一気に緩和に転じた。こうした状態なので、本当の情報がなかなかつかめないリスクが常にあり続ける国だと感じている。日本を含む西側の文化からすると、特に分かりにくい部分がある。

 ただ、我々の究極のミッションは、どのような文化や宗教であっても人々の健康に焦点を当て(てそれを良くす)ることだ。一時的、あるいは政治的な理由によってやりにくくなることは、その時々でどこかにあり得ると思う。どのような状況にあっても、医療のアカデミア同士のコミュニケーション(それすら政治的な影響を受けるのだが……)を支援するのが我々の仕事だ(図2)。

図2 中国市場に対するオリンパスの考え
図2 中国市場に対するオリンパスの考え
高い成長性を見込んでおり、内視鏡医療の需要増を中心に売り上げの伸長を計画している。(出所:オリンパスの資料を基に日経クロステックが作成)
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米中対立の激化による影響は出ていますか。

竹内社長:なくはない。中国がドメスティック(国内的)な施策をとっているため、大なり小なり影響を受けている。幸い、当社のほとんどの製品は中国のドメスティック政策の対象外だ。ただ、中国は1つの施策が立ち上がると、対象の内外に関係なくプロセスが停滞することが起こり得る。従って、ビジネスへの影響は皆無ではない。判断が遅れるなどの影響が出る可能性がある。

日本の医師との連携で開発・生産が進む

中国に工場を造る計画はありますか。

竹内社長:消化器内視鏡は福島県会津若松市(にある会津オリンパスの工場)で100%造っている(図3)。スコープも同市で造っている。技術のシナジー(相乗効果)を生かす工場となっている。従って、開発と生産を切り離した企業活動は行っていない。

図3 会津オリンパスの会津工場
図3 会津オリンパスの会津工場
内視鏡および内視鏡用洗浄消毒装置の生産を手掛ける。(出所:日経クロステック、工場の外観の写真:オリンパス)
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 というのも、我々が扱っているのは医療行為に使う道具だからだ。すなわち、医療行為があってこそ、我々の企業活動は成立する。そして、その医療行為を考えるのは我々ではなく、医師だ。つまり、医師が症状や病気に対して「こう治したい」と考え、その考えを基に議論して我々が医療機器として形にしている。

 そのため、こうした行為(医師との連携)が行われている場所になければ、医療機器の技術を集積できない。すなわち、会津若松市(生産の拠点)と東京都八王子市(開発の拠点)との連携で行われている製品開発と生産のバリューチェーン(価値連鎖)は、行為が行われている日本にあってこそだ。

 従って、これらの箱(製品開発と生産の両拠点)をどこかに移すとか、部分的にどこかに持っていくというのは、あまり現実的ではないと考えている。