2023年1月26日、全国で電子処方箋の運用が始まったが、電子処方箋に対応している施設はわずかだ。電子処方箋を「受け取る側」である薬局はシステム導入を進める意向が強いが、ベンダーの対応が追い付かず、システム導入が進んでいない。
ベンダーは「検討中」、見積もりさえ取れない
「厚生労働省からベンダーに働きかけ、情報共有の場を設けてほしい」――。電子処方箋運用開始に先立つ2023年1月16日、厚労省の社会保障審議会(医療保険部会)で、同部会委員で日本薬剤師会の渡辺大記副会長はこう訴えた。
「システム改修をするには、ベンダーの担当者にまず問い合わせるしかないが、問い合わせると『検討中』『情報がない』などの回答が多く、見積もりさえ取れないのが現状だ」と日本薬剤師会の原口亨常務理事は説明する。「(システム導入の対応が追い付かない背景として)何が課題になっているのかも分からないというのが現場の声だ」(渡辺副会長)。
一方、厚労省は2022年10月から全国4地域の医療機関と薬局で電子処方箋のモデル事業を実施している。そこで日本薬剤師会は複数のベンダーを含めて、モデル事業の知見共有、システム導入のための課題共有やうまく進めるための協議の場を厚労省主導で設置してほしいと要望した。
医療機関のオンライン資格確認等システム導入対応に追われる
薬局は電子処方箋を受け取る側になるので、いつどこの医療機関から電子処方箋が来ても対応できるように、なるべく早めにシステム改修し、導入したいというインセンティブがある。それにも関わらず、ベンダーの対応が進まず、導入が進まない事態が起きているのはなぜか。
電子処方箋の仕組みから見ていこう。そもそも電子処方箋は、薬剤師がシステムを介して処方箋を取得したり、調剤内容を登録したりする仕組みである。社会保険診療報酬支払基金(支払基金)などが管理するシステムに医師が処方箋のデータを登録し、医師や薬剤師、患者が情報を登録・共有する。
処方箋の情報はマイナンバーにひも付けて登録され、患者は自身のマイナポータル経由で処方箋の内容を閲覧できる。医師や薬剤師も重複投薬をチェックしやすくなるため、適切な医療につながるとしている。
医療機関や薬局が電子処方箋を利用するためには、マイナンバーカードを保険証として使うために必要な「オンライン資格確認等システム」の導入が前提となる。 具体的には、患者を受付で認証するための顔認証付きカードリーダーを導入し、レセプトコンピューター(レセコン)を改修したりネットワークを整備したりする。電子処方箋の発行にあたっては、これらとは別にレセコンなどの改修が必要になる。多くの薬局で対応が進んでいないのは、このシステム改修の段階である。
このシステム改修を担うベンダーは、医療機関と薬局のオンライン資格確認等システムの導入も担っており、その対応が終わらないとその次の段階である電子処方箋を利用するためのシステム改修にリソースを集中させることが難しい。