全1805文字
PR

 光衛星通信とは、これまでの電波(マイクロ波)の代わりにレーザー光を使って人工衛星間や衛星と地上間の通信を行う技術である。最大の特徴は電波よりも高速な通信ができることだ。一般的な電波通信の10~100倍に相当する10Gbps(ビット/秒)以上の速度を実現する。さらに、電波は周波数資源の枯渇が問題となっており、干渉を避けるための周波数調整に数年かかることがあるのに対し、光衛星通信は現状、国際的な周波数調整や免許が不要な点も大きなメリットである。

[画像のクリックで拡大表示]

 これまで日米欧の宇宙機関は1μm帯や1.55μm帯の赤外域のレーザー波長で実験を行ってきたが、最近になって1.55μm帯がデファクトスタンダード(事実上の標準)として業界で認識されている。

 光衛星通信は約40年前から“夢の技術”といわれてきた研究の歴史の長い技術だが、ここにきて実用化に向けたフィージビリティースタディー(実現可能性の調査・検討)が加速している。主役は、米国防総省(DOD)が2019年3月に設立した宇宙開発局(SDA:Space Development Agency)である。DODは数百機以上の小型衛星が一体となってさまざまな機能を担う衛星コンステレーションによる「NDSA(National Defense Space Architecture:国家防衛宇宙体系)」構想を進めており、SDAはこうした宇宙関連プロジェクトを指揮している。

 SDAは、このNDSAの衛星コンステレーション向けに、早期に光衛星通信を搭載すべく、2022年2月末に米国の3社に衛星開発を発注した。その目的は、ロシアによるウクライナ侵攻で実戦において初めて使われたとされる極超音速兵器の探知・追尾である。この新型兵器は、静止軌道にあるこれまでの早期警戒衛星では距離が遠いために、正確に軌道を追跡できない。そこで、低軌道を周回する衛星コンステレーションで探知・追尾し、その情報を即座に地上に送ることを目指す。このリアルタイム通信に不可欠なのが、光衛星通信というわけだ。

 SDAはこの衛星開発に2000億円超の予算を付けて実証を重ね、標準仕様を調整していく。注目されるのは、衛星開発を受注した企業に対して、ドイツのMynaric(マイナリック)やTesat-Spacecom(テサット・スペースコム)といった、光衛星通信の開発で世界をリードする企業が端末を供給することである。

Mynaricが開発したSDA規格準拠の端末
Mynaricが開発したSDA規格準拠の端末
SDAの規格に準拠した光衛星通信端末「CONDOR Mk3」。通信速度は2.5Gbps。光アンテナの口径(右の写真で黒い丸の部分)は80mm(写真:Mynaric)
[画像のクリックで拡大表示]

 これ自体は安全保障の話だが、世界の光衛星通信関係者がSDAの動向を注視している。潤沢な資金とスピード開発によって技術は成熟度を増し、いずれそれが民間に転用される可能性が高いからである。業界では2~3年以内に市場が立ち上がるとの見方が多い。