日産自動車とフランスRenault(ルノー)の提携見直しを受けて、日産を飛び出して新たな道を歩く“辞め日産”たちから不安と歓迎が混じった声が聞こえてきた。(1)ルノーの新会社Ampere(アンペア)との距離感と、(2)意思決定プロセスの変化――への関心が目立つ。
「資本の力を均等にするためにアンペアへ出資するのは、日産がアンペアを十分評価した結果であれば良い。だが、そうでない場合、日産として少なくとも技術的には不安が残る」
こう語るのは、名古屋大学未来社会創造機構客員教授の野辺継男氏である。同氏は2004年から2012年まで日産に在籍し、車載IoTに関する開発や事業立ち上げなどを担当してきた。
アンペアについてルノーグループCEO(最高経営責任者)のLuca de Meo(ルカ・デメオ)氏は、「最先端のソフトウエア定義車両(Software Defined Vehicle、SDV)技術を搭載した完全な電気自動車(EV)を開発・製造・販売する」と説明する。
1万人の従業員を抱えるEVメーカーとなり、2031年までにルノーブランドのEVを100万台規模で生産する計画だ。ルノーグループは2023年下半期の新規株式公開(IPO)を想定しており、過半数の株式は同グループが保有する意向である。
このように大枠こそ発表されているが、アンペアの実態には不透明な部分が多い。元日産のパワートレーン技術者は、「アンペアの電池調達戦略が見えてこない状況では、世界に影響力を与えることは難しい」と指摘する。EVを語る上で、電池調達は最優先で考えるべきテーマだ。
同技術者は、「日産がアンペアの中で主導的な立ち位置を取れるとは思い難く、いいように使われて疲弊しないことを祈るばかりだ」と話す。野辺氏は、「アンペアを評価しているのであれば、開発スピードのために、日産はマジョリティー(過半)出資を求めるべきだと思う。逆に、評価していないのならば、むしろ開発の重荷になる可能性を再確認する必要があるのではないか」と分析した。
かつては「不健全」な意思決定も
アンペアとの距離感を含め、日産はこれから意思決定の重要局面を何度も迎える。出資比率が15%で対等になると、日産は自らの考えに基づいて意思決定を下すようになる。
ルノーに43%もの株式を握られていた頃はどうだったか。実態として、「特に現場レベルでは出資比率を背景にした強引なやり方はほとんどなかった」(元日産の技術者)という。問題は、「ルノーが裏で決める日産の役員人事」(同)だ。ルノーの言うことを聞く役員が「忖度(そんたく)した意思決定をすることで、不健全なことが起きていた」(同技術者)。