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 脱エンジンに向けて走るホンダ。2040年には販売する新車の全てを電気自動車(EV)か燃料電池車(FCV)にする目標を達成すべく、燃料電池(FC)システムのコスト低減を急ぐ。同社は2023年2月2日、FCシステムの開発ロードマップを発表した。

 「2030年には、第1世代品と比べたコストを1/6にしていく」。このように宣言したのは、ホンダ執行役専務の青山真二氏である。実現できれば「トータルコストでディーゼルエンジンと同等」(同社事業開発本部事業開発統括部水素事業開発部部長の長谷部哲也氏)になるとして、要素技術の研究を開始した。

ホンダ執行役専務の青山真二氏
ホンダ執行役専務の青山真二氏
「水素社会の実現に向けて、個社でできることには限りがある」とし、他社との連携を強化する姿勢を強調した。(写真:日経Automotive)
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 ホンダ関係者によると、2040年時点におけるEVとFCVの販売比率は「EVが大半を占める」という。それでもコストが高く販売量も少ないFCVの開発を続けるのは、ゼロエミッション車のパワートレーンの選択肢としてEV以外を残すためだ。EVの「一本足打法」はリスクが高いとみる。

 FCVと同じ燃料を使う水素エンジンという道もあるが、「エンジンで燃焼させる時点で何らかの排ガスが発生するため、現時点では考えていない」(ホンダのパワートレーン担当者)という。

2030年に第3世代品

 ホンダが示したFCシステムの開発ロードマップはこうだ。第1世代と位置付けたのが、同社のFCV「クラリティフューエルセル」の2019年モデルに搭載したシステム。第2世代品は米GMと共同開発したもので、「2023年内に量産を開始する」(青山氏)。第1世代品からコストを1/3に、耐久性を2倍にした。

GMと共同開発したFCシステムの第2世代品
GMと共同開発したFCシステムの第2世代品
2023年2月2日の説明会で披露した。出力は80kW程度。(写真:日経Automotive)
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 詳細は明らかにしないが、FCセルの部材やシステムの構造などを見直した。「セル内で水素と空気中の酸素を反応させるMEA(Membrane Electrode Assembly、膜電極接合体)の材料を変更し、白金(Pt)の使用量を減らした。補器類は、機能統合によって部品点数を減らしている」(ホンダのFC開発担当者)という。

 ホンダは、この第2世代品を2024年に北米と日本で発売する新型FCVに搭載する予定だ。新型FCVは同社のSUV(多目的スポーツ車)「CR-V」のプラグインハイブリッド車(PHEV)モデルがベース。エンジンがあったフロントフード下に、FCVシステムと駆動用モーターを配置する。電池は前席と後席の間の床下に敷く。水素タンクは2本で、後席下と荷室下に搭載する。FCシステムの出力は80kW程度になる見込みだ。

次期FCVの部品搭載イメージ
次期FCVの部品搭載イメージ
駆動用モーターの上に燃料電池(FC)システムを積む。「インテリジェントパワーユニット」は電池のこと。(出所:ホンダの資料を日経Automotiveが撮影)
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 第3世代品は、第2世代品からコストを1/2に、耐久性を2倍にする。第2世代品はGMと共同開発したが、第3世代品は単独で取り組むことも視野に入れながら要素研究を開始した。第3世代品の実用化は、2030年ごろを想定する。

FCシステムの開発ロードマップ
FCシステムの開発ロードマップ
第3世代品は、第1世代品と比べるとコストを1/6に、耐久性を4倍にする計画である。(出所:ホンダの資料を日経Automotiveが撮影)
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 ホンダは、「FCVが本格普及するのは2030年以降」(同社事業開発本部事業開発統括部統括部長の一瀬新氏)と想定する。普及期に差し掛かるタイミングで、コストをディーゼルエンジンと同等まで下げたFCシステムを投入する。

 システム単体の改良と並行して、ホンダはFCの用途開拓も進める。適用先を広げることで量産規模を確保し、さらなるコスト低減を狙う。用途開拓に向けた一手として、FCシステムの外販を決めた。