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 産業技術総合研究所(産総研)は、展示会「国際ナノテクノロジー 総合展・技術会議(nano tech 2023)」(2023年2月1~3日、東京ビッグサイト)に、「湿度変動電池」または「IoTセンサ用湿度変動発電素子」を出展。開発した素子で電磁モーターを回すデモも実演した(図1)。同研究所が2021年6月に発表した技術だが、今回の展示会に出展することで実用化に向けてテコ入れしたいようだ。「IoT(Internet of Things)端末向け自立電源として期待できる」(産総研)。

図1 nano tech 2023で産総研が披露した湿度変動電池の発電デモ
透明なケース内にはシリカゲルを入れ、低湿度状態になっている。素子は朝の時点では高湿度環境下で保管しておき、展示開始と共に透明ケースの中に入れた。すると、素子は高湿度から低湿度へと湿度が変動する環境に置かれるため発電する。撮影したのは15時20分ごろ。朝から発電し続けているという(写真:日経クロステック)
図1 nano tech 2023で産総研が披露した湿度変動電池の発電デモ
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Liイオン2次電池とは似て非なる素子

 開発したのは、塩化リチウム(LiCl)水溶液を電解液とする、一見するとLiイオン2次電池(LIB)のような素子である(図2)。2枚の電極は共に、銀(Ag)と塩化銀(AgCl)から成る。さらに電極間に陽イオン交換膜を置いて、Liイオン(Li)以外の電荷の行き来を遮断した。

図2 素子の構成と拡大写真
素子構成(a)と拡大写真(b)(出所:(a)は産業技術総合研究所、(b)は日経クロステック)
(a)素子の構成
(a)素子の構成
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(b)素子の拡大写真
(b)素子の拡大写真
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 ただしこれはLIBではない。2つの電極が同じ材料から成り、電極材料だけでは電位差が生まれないからだ。

 それでも、湿度が変化する環境中に置くと電極間に電位差が生じ、回路があれば電力を出力する。理由はこうだ(図3)。陽イオン交換膜で隔てられた2つの電解液のうちの1つは、密封された格好で、Li以外の電解質成分や溶媒が外部と出入りすることがないが、もう一方の電解液は、空気に接しており、湿度に応じて水(H2O)を取り入れたり、放出したりする。

図3 湿度の変動で発電する理由
(出所:産業技術総合研究所)
図3 湿度の変動で発電する理由
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 素子の周囲の空気が低湿度の場合は、電解液中のH2Oが蒸発して電解液の濃度が高まる。この濃度が、密閉された側の電解液の濃度を超えると、浸透圧の原理から、Liの一部が、もう一方の電解液に陽イオン交換膜を透過して移動する。すると電位差が生じるので、電極から出ている回路に電流が流れる。

 逆に、空気の湿度が高まってくると、空気に接した側の電解液に空気中のH2Oが取り込まれ、電解液の濃度が低下する。この濃度が、密閉した電解液の濃度よりも低くなると、低湿度の場合とは逆の現象が起こる。回路に流れる電流は逆向きになる。「実用化の際は、何らかの整流回路を入れて電流の向きを同じにすることになる」(産総研)。