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 ソニーケミカルを前身とする電子部材メーカーのデクセリアルズが工場のデジタル化を進めている。先兵となるのは栃木県にある反射防止フィルムを製造する工場だ。反射防止フィルムは製造工法の違いによって「ウェット式」と「ドライ式」の2種類が存在する。同社は主に高機能製品に採用されるドライ式の反射防止フィルムを製造しており、その世界シェアは金額ベースで9割を超える。

 この同社が強みを持つ部材の検査工程に、独自開発したAI(人工知能)を導入。デクセリアルズの大河原秀之経営戦略本部DX推進部担当部長は「AIを含めた様々な施策によって歩留まりが生産当初に比べて3割向上している」と成果を語る。検査工程に画像認識アルゴリズムを駆使することで当初70%だった不良分類の精度が2023年2月現在、95%以上にまで上昇しており、歩留まり向上に寄与した。

AIのアルゴリズムを独自で開発

 同社が工場のデジタル化に着手したのは2016年にさかのぼる。事業拡大を目指す中で、新拠点となる栃木事業所で反射防止フィルムの生産を開始することがきっかけだった。栃木事業所の稼働に合わせて、従来の課題であった製品の歩留まりを改善する目標が掲げられていた。

ロールtoロール方式。フィルムを巻き取りながら生産していく
ロールtoロール方式。フィルムを巻き取りながら生産していく
(出所:デクセリアルズ)
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 反射防止フィルムは外光の反射を低減させる目的で使われる部材で、同社のドライ式反射防止フィルムはノートパソコンなどに広く採用されている。同製品はロール状に巻かれた材料から加工・処理をし、それを巻き取っていく「ロールtoロール」という手法で生産する。従来は幅や長さなどルールベースを事前に取り決め、カメラでフィルムの外観検査をしていた。

 しかしルールベースに収まらない不良品などがあり、不良分類の精度は70%台で、 どうしても人が確認をする作業が発生してしまっていた。さらにロールに汚損が発生していると、不良品が連続的に発生し、歩留まりが悪化してしまうリスクがあった。そこで精度向上のため、2018年に米MathWorks(マスワークス)と協力し、画像認識のアルゴリズムを独自で開発。デクセリアルズからは3人が開発に携わった。もともとは品質検査に関わる部門で検査装置の開発を担っていた人たちだ。