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 山形大学は、水(H2O)の遮断性能が高いバリアー層を室温かつ塗布プロセスで成膜する技術を開発し、展示会「第22回国際ナノテクノロジー 総合展・技術会議(nano tech 2023)」(2023年2月1~3日、東京ビッグサイト)に出展した(図1)。

図1 今回のバリアー層を成膜した各種のフレキシブル樹脂基板
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図1 今回のバリアー層を成膜した各種のフレキシブル樹脂基板
左からポリイミド(PI)基板、PET基板、PEN(ポリエチレンナフタレート)基板(写真:日経クロステック)

 H2Oの透過を防ぐバリアー層は有機ELディスプレーなど、H2Oに弱い素子には必須の機能になっている。その性能指標である「水蒸気透過度(Water Vapor Transmission Rate:WVTR)」は、1m2の面積をH2Oが何g透過するかを示すものだ。その数値が小さければ小さいほどバリア性能が高い。

有機ELには特別高いバリアー性能が必要

 食品の包装、例えば、ポテトチップスの袋に使われているバリアー層フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)にアルミニウム(Al)を蒸着したものだが、そのWVTRは、「0.01~0.1g/m2/day程度」(山形大学)である(図2)。

図2 用途によって必要なバリアー性能は異なる
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図2 用途によって必要なバリアー性能は異なる
有機ELディスプレーやペロブスカイト太陽電池は、カニカマの包装材の100万倍以上、ポテトチップスの包装材の1万倍以上の水蒸気バリアー性能が必要になる(写真:山形大学の展示を日経クロステックが撮影)

 液晶ディスプレーやシリコン(Si)系の一般的な太陽電池では、実用的な耐久性の確保のためにWVTRで10-3g/m2/day程度のバリアー層が必要とされる。

 一方、有機ELディスプレーやペロブスカイト太陽電池に必要なバリアー性能はWVTRで10-6g/m2/day程度と桁違いに高い。

 現時点でこのバリアー性能を実現できるのはガラスしかない。ところが、ガラスは一般には曲げることができず、衝撃にも弱い。これが、展示会などではしばしば見かける軽くてフレキシブルな有機ELディスプレーがなかなか商品化されない理由の1つになっている。

 ガラス以外では、窒化ケイ素(SiNx)膜などを真空蒸着で成膜することで、バリアー層として利用することが試みられてきた。ところが、真空プロセスは量産性が低くコストが高い一方で、得られるWVTRは、10-4g/m2/day程度と、求められる水準に届かなかった。