細胞培養技術で作ったサーモンを飲食店で食べられる日がまもなく来る。培養サーモンを開発する米Wildtype(ワイルドタイプ)は、2023年内にも米国で認可を得て飲食店への提供を始める計画だ。記者が同社の培養サーモンを試食すると、見た目だけではなく、味や食感も本物のサーモンに近い水準に達していると感じた。採捕、養殖に続く第3の手段が水産業に革新をもたらしそうだ。
培養サーモンは、培養肉の一種である。培養肉とは、牛や豚といった動物の細胞を培養して、本物の肉のような味と食感を再現する人工肉だ。植物性材料などから作る代替肉と異なり、実際の動物の細胞を利用する。培養肉は工場で大量生産できることから、食料不足への懸念やSDGs(持続可能な開発目標)達成への活動強化などを背景に、代替肉と共に注目されている。
ワイルドタイプは2016年の創業で、2023年1月時点で累計約1億4000万米ドル(約185億円)を調達し、従業員は80人近くいる。共同創業者は最高経営責任者(CEO)のJustin Kolbeck(ジャスティン・コルベック)氏と、分子生物学者で心臓専門医でもあるAryé Elfenbein(アリエ・エルフェンベイン)氏だ。最初の製品は、米国で「シルバーサーモン」として知られるギンザケである。
米国で培養肉が注目されたきっかけは、米Upside Foods(アップサイド・フーズ)が同社の培養鶏肉の安全性について米食品医薬品局(FDA)から2022年11月に「異議なし」のレターを受け取ったことだ。これは同社の培養鶏肉の安全性を「FDAが認めたことになり、販売しても問題ないということ」(培養肉に詳しいバイオ技術者)を意味する。米国で市販するには米農務省(USDA)の認可も必要で、一般消費者が入手するのはまだ先だが、「培養肉業界にとって大きな一歩」(前出の技術者)である。
これに対して培養魚肉の場合、FDAに申請して安全性に異議なしとなれば、「販売を開始できる。USDAの認可が必要ない分、米国では2023年にも発売できるだろう」(コルベック氏)。実際、「FDAとは約4年前から協議しており、今、最終段階に来ている」(エルフェンベイン氏)。
現在、サンフランシスコにあるパイロットラインで少量を生産している。まず1、2軒のレストランに培養サーモンを販売し、そのレストランを通じて消費者に提供する考えだ。