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 廃棄されたポリマーを製品原料の一部として再利用する「ポリマーリサイクル」に取り組む東レは、その成型加工にかかる期間を月単位で短くする計算技術を米シカゴ大学と共同開発したと、日経クロステックの取材で2023年2月7日明らかにした。ポリマーリサイクルは日本国内で年間約200万トンに上る。東レはこの技術などを活用して、製品設計時にリサイクル性までを考慮する循環型の材料開発を進めていきたい考えだ。

*2020年、プラスチック循環利用協会調べ。マテリアルリサイクルとケミカルリサイクルの合計

従来は粘弾性が未知だった

 ポリマーを原料として何らかの製品をつくるには、指定の形状に変形するための「成型加工」というプロセスが要る。ポリマーは温度が低いと硬く、温度が高いと軟らかくなる性質を持つため、所望の軟らかさになるまでポリマーを加熱した上で、伸長や圧縮によって最終製品の形をつくる(図1)。成型加工は製品の性能を決める重要な要素である。

図1 粘弾性の温度依存性の概要
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図1 粘弾性の温度依存性の概要
ポリマーは温度(加工時間)の高低(長短)によって粘弾性が変化する。その変動の仕方はポリマー種ごとに異なる(図:東レ)

 軟らかさ(粘弾性)の温度依存性は既定のポリマーならば既知であるので、ポリマーに応じてプロセス温度を変えたり、プロセス温度に応じてポリマーの調合を変えたりし、材料を所望の軟らかさにする。ところがポリマーリサイクルの場合、廃棄物由来ポリマーと既定のポリマーの混合物となるため分子構造がその都度異なり、粘弾性が既知ではない(図2)。

図2 粘弾性の温度依存性が分からない
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図2 粘弾性の温度依存性が分からない
複数のポリマー種を混ぜ合わせるため、粘弾性の温度依存性がわからない。そのため所望の厚みや幅に成型することが難しく、最終製品の質を落としてしまう。これはポリマーの粘弾性が未知であることに起因している(図:東レ)

 ゆえにひとまず適当な温度・適当な原料(量や劣化具合)で成型加工し、硬すぎたり軟らかすぎたりしたら、もう一度別の条件で試すというトライ&エラーを繰り返す必要がある(図3)。「(指定の形状に成型加工するには)最低2回この過程が必要である。しかも1回につき約2カ月かかる。加工して、物性評価して、製品の特性が大丈夫かなどを調べる。たとえ1~2回のやり直しでも負荷は大きい」(東レ 先端材料研究所 デジタルマテリアルサイエンスグループ 主席研究員の川﨑学氏)。当然、歩留まりも低下してしまう。

図3 従来手法は試行錯誤で分量を決定
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図3 従来手法は試行錯誤で分量を決定
廃棄物由来のポリマーを用いた場合の成型加工プロセスの過程を示した。所望の軟らかさにならず、成型加工後に厚みや幅などの問題が発生しやすい。するとまた一から原料を調整して新たにプロセスに流す必要がある(図:東レ)

化学構造から粘弾性を推定

 これはひとえに、ポリマーの粘弾性の温度依存性が未知なことが原因である。そこで東レとシカゴ大学の研究グループは、「マルチスケールシミュレーション」の計算手法を開発し、ポリマーの化学構造情報のみから粘弾性の温度依存性を推定することに成功した(図4)。すなわち、これからはポリマー原料の化学構造さえ調べれば、一発で成型加工できるようになる。

図4 ポリスチレン(PS)と「ナイロン6」(PA6)での適用事例
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図4 ポリスチレン(PS)と「ナイロン6」(PA6)での適用事例
汎用プラスチックであるPSと、エンジニアリングプラスチックのPA6の粘弾性予測の結果。予測は線で、実測値は点で示した。両者が良好一致していることが分かる(図:東レ)