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 トヨタ自動車の豊田章一郎名誉会長が永い眠りについた。創業家出身で、同社の6代目社長を務めた。最大の功績は「工販合併」だ。クルマの開発・製造を担う会社と販売を手掛ける会社を1つにまとめ、現在のトヨタ自動車を誕生させた。章一郎名誉会長の長男が同社の豊田章男現社長(11代目)であることはよく知られている。

豊田章一郎名誉会長
豊田章一郎名誉会長
トヨタ自動車の6代目社長(1982~1992年)を務めた。開発・製造会社と販売会社を合併させて現在のトヨタ自動車を創った。(写真:日経クロステック)
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章一郎名誉会長の学歴と主な職歴・受賞歴
章一郎名誉会長の学歴と主な職歴・受賞歴
(出所:日経クロステック)
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 章一郎名誉会長は、1947年に名古屋大学工学部機械工学科を卒業後、1952年にトヨタ自動車工業(当時)に入社した。そこで副社長まで昇進した後、1981年にトヨタ自動車販売(当時)に移って同社社長に就任した。これが工販合併、すなわちトヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売を合併させて「新生トヨタ自動車」として再スタートを切るためのトップ人事だった。

 トヨタ自動車工業の豊田英二社長(当時、5代目)と協議を重ね、章一郎副社長(当時)がトヨタ自動車販売の社長になることで、両社の合併を円滑に進めた。この大仕事の後、1982年に章一郎名誉会長は当時のトヨタ自動車の社長に就任した。

「お客様第一」の思想でトヨタ自動車を創る

 工販合併の狙いは、顧客の声がクルマを開発する現場に直接届くようにすることにあった。合併前は、トヨタ自動車工業が製造したクルマをトヨタ自動車販売に卸して顧客に販売していた。そのため、顧客の要望や不満の声はトヨタ自動車販売を介してトヨタ自動車工業に伝わる。これでは伝言ゲームのようになり、顧客の声が開発現場に届くのに時間がかかる上に、余計な情報が加わったり忖度(そんたく)が働いたりして、顧客の声が開発現場に正確に伝わらないことがあった。

 ここにメスを入れたのが章一郎名誉会長だったというわけだ。この工販合併によって顧客の声がストレートに伝わるようになった開発現場は、それまで以上に顧客志向のクルマづくりを展開した。まさに、トヨタ自動車が大切にしてきた「お客様第一」の施策だ。さらに言えば、章男現社長が進めてきた「もっといいクルマづくり」の礎を築いたという見方もできる。