DG Daiwa Ventures(東京・千代田)が出資する米Knowtex(ノウテックス)は、診療記録や医療事務書類を自動で作成するソフトウエアの開発を進めている。医療に特化したAI(人工知能)で医師と患者の会話から診療内容を要約し、書類作成の効率化を目指す。ソフトウエアのプロトタイプを複数の医師に使ってもらったところ、「1日2~3時間程度を節約できると分かった」(Knowtex)という。
診療記録と書類作成の改善目指して起業
医師が患者にどのような検査を実施し、診断して治療したか――。診療時の記録は患者に対する医療行為を適切に進めるのに必要なほか、医療機関が検査や治療にかかった費用の払い戻し(保険償還)を受けるための書類作成でも活用される。医師はこうした診療記録や医療書類の作成に多くの時間を割いている。また、診療中に記録しようとすると患者の顔を見ながら話を聞くことが難しいという課題があった。
Knowtexの共同創業者である同社CEO(最高経営責任者)のCaroline Zhang氏とCTO(最高技術責任者)のJocelyn Kang氏は、医師の診療記録や書類作成に改善の余地があると考え起業した。実は2人とも、患者と医師の会話を書き留める「医療書記」として働いた経験があり、書類作成を支援していた。医療書記の記録があっても、医師が書類作成のために残業するのが当たり前だったという。
Zhang氏とKang氏は共に米スタンフォード大学でAIやコンピューターサイエンスなどを学んでおり、卒業のタイミングが新型コロナウイルス感染症の拡大時期と重なった。こうした経緯から、「医師が患者のケアに集中できるようにするため、AIを使ったソフトウエアの開発を始めた」とZhang氏は話す。
音声入力と要約で2つのAI
同社が開発するソフトウエアの使い方はシンプルだ。医師は患者の診療を始める際、スマートフォンやパソコンの画面に表示される録音ボタンを押す。ソフトウエアは録音した会話の中から医療情報を特定し、要約を作成。要約を基に、保険償還のために必要な書類を作成する。医師は完成したデータを確認し、内容に問題がなければ承認する。データはクラウド内に保存される。
同社は2種類のAIモデルを用意した。1つは会話の音声データを文字データに変換するもの、もう1つは内容を要約して書類を作成するものだ。要約は、医療現場の記録で使われる「SOAP」形式に当てはまるように実施する。SOAPは患者の経過をカルテなどに記録する形式の1つで、情報共有がスムーズになることから米国や日本の医療現場で採用されている。
具体的には、「S(Subjective:主観的な情報)」「O(Objective:客観的な情報)」「A(Assessment:評価)」「P(Plan:計画)」の4つの項目から成る。Sの主観的な情報は患者が話した内容などから得た情報、Oの客観的な情報は診察や検査の結果から得た情報、Aの評価は医師による診断の結果、Pの計画は診断に基づく治療の方針である。
医師は患者から、「膝が痛い」などの情報を聞き出し、検査結果を説明して診断結果と治療方針を患者に伝える。ソフトウエアは会話内容から4つのカテゴリーに沿って要約を作成する。