日本のアニメ産業は3兆円に迫る規模にまで成長したものの、制作現場は人手不足で悲鳴を上げる。そんな状況を打破しようと、生成AI(人工知能)を活用しようという動きが出てきた。分業化が進み、約50年間大きく変わることがなかった日本のアニメ制作現場を一変させる可能性を秘める。
「慢性的な人手不足で、日本のアニメ業界は旺盛な需要に対応しきれていない。AIを使えば、新たな方法で効率良くアニメを制作できるのではないか。クリエーターの負荷を減らし、創作に集中できる時間をもっと捻出したい」――。米Netflix(ネットフリックス)が東京に開設した、アニメ制作の支援施設「Netflix アニメ・クリエイターズ・ベース」で責任者を務める櫻井大樹氏(Netflix アニメ チーフ・プロデューサー)は、アニメの制作工程に生成AIを導入した狙いをこう語る。忙しく、新しい制作方法を試せない現場に代わり、同施設が挑戦するというのである。
人手不足や日々の雑務で創作に集中できないという課題は、日本のアニメ業界だけではなく、多くのクリエーターが抱く共通の悩みだ。ネットフリックスの取り組みは、クリエーティブ業界が生成AIとどう向き合うべきか考えるうえで試金石となる。
アニメ・クリエイターズ・ベースは、背景美術(背景画)の制作工程に生成AIを導入した約3分間のアニメ「犬と少年」を制作し、2023年1月に公開した。約40カット(場面)の背景画すべての制作に生成AIを活用した。テキスト(プロンプト)やレイアウト(線画)などをAIに入力し、出力されたイラストに、人が手を加えて背景画として完成させた。
このプロジェクトに向けた独自の生成AIを開発したのはrinna(りんな、東京・渋谷)だ。アニメ制作会社WIT STUDIO(ウィットスタジオ、東京都武蔵野市)がネットフリックス向けオリジナル作品として制作したアニメの背景画データを使い、AIを学習させた。