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 日産自動車が電動化戦略を修正した。欧州市場においては2026年度における電動車両の販売比率を75%としてきたが、98%に改めた。2030年度までに投入する電動車両のモデル数は、19車種の電気自動車(EV)を含む27車種に増やした。電動化の取り組みを加速させる姿勢が目立つが、それ以上に重要なのは「利益ある成長」に向けた取捨選択がはっきりしてきたことだ。

 日産は2023年2月27日、長期ビジョン「Nissan Ambition 2030」の進捗状況に関する説明会を開催。同社COO(最高執行責任者)のAshwani Gupta(アシュワニ・グプタ)氏が登壇し、主要市場ごとの状況を整理しつつ、2021年11月に発表したNissan Ambition 2030からの変更点や今後の開発について語った。

中国は次期排ガス規制が延期

 欧州は「EVの普及が進んでいる」(グプタ氏)とし、2026年度における電動車両の販売比率を98%まで高める計画だ。このうち78%がEVで、20%がシリーズ式ハイブリッド機構「e-POWER」搭載車(以下、e-POWER車)である。従来計画ではEVが50%、e-POWER車が25%だった。

電動車両の販売比率を見直し
電動車両の販売比率を見直し
国や地域ごとにEVとe-POWER車のバランスは大きく異なる。EVシフトが進む欧州では電動化の目標を前倒しした。(出所:日産自動車の資料を基に日経Automotiveが作成)
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 日産はEVラインアップを拡充する方針で、次期型「リーフ」のほか、「Juke(ジューク)」や「Qashqai(キャシュカイ)」といったSUV(多目的スポーツ車)のEVモデルを準備する。さらに、フランスRenault(ルノー)から供給を受ける形で、「Micra(マイクラ)」の後継車となる小型EVも用意する。

 日本も2026年度における電動車両の販売比率を上方修正した。これまで55%だったが、58%とした。EVが従来の10%から15%に増えると見込む。e-POWER車は45%から43%へ微減とした。

 中国市場は、2026年度における電動車両の販売比率を40%から35%へと下げた。グプタ氏が「(中国のEV市場は)ローカルブランドが独占している」と語るように、海外メーカー製EVの販売は伸び悩んでいる。

 さらに、次期排ガス規制「国7(China 7)」の施行が延期されことから、「内燃機関(ICE)車の需要がもう少し続く」(同氏)として見通しを変えた。影響を受けるのがe-POWER車で、同年度時点で25%と見込んでいたが、12%に減らした。日産は2024年に中国専用としてSUVタイプのEVを投入して巻き返す方針だが、e-POWER車の台数減を吸収するのは難しそうだ。

日産COOのアシュワニ・グプタ氏
日産COOのアシュワニ・グプタ氏
2023年2月にオンライン説明会を開催し、電動化に関する従来計画からの見直しや今後の方針について語った。(出所:オンライン会見の画面を日経Automotiveがキャプチャー)
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 米国市場は、電動車両の販売比率に変更はない。2030年度までにEVのみで40%以上という目標を維持した。達成に向けて欠かせないのが、バイデン米政権が2022年8月に成立させたインフレ抑制法(IRA)への対応である。条件を満たせば、EVを購入すると最大で1台あたり7500ドル(1ドル=136円換算で102万円)の税控除を受けられる。

 車両や部品の現地生産や、中国をはじめとする「懸念される外国の事業体(Foreign Entities of Concern、FEoC)」から電池の部品または主要鉱物を調達しないことなどを条件としている。グプタ氏はIRA対応について、「課題もあるが、チャンスでもある」と受け止める。

 最大の課題として位置付けるのが、「(電池に使う)鉱物の現地調達」(同氏)という。さらに、電池調達先も増やす。現在は、中国企業を親会社に持つエンビジョンAESCグループ(神奈川県座間市)から調達しているが、「2つめの調達先を検討中」(同氏)だ。

EV「リーフ」のリチウムイオン電池
EV「リーフ」のリチウムイオン電池
エンビジョンAESCグループが供給する。(写真:日経Automotive)
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 欧日中米を含むグローバル市場では、2026年度における電動車両の販売比率を40%から44%に増やす見通しである。2030年度には55%(従来計画では50%)へと拡大させる計画だ。従来15車種のEVを含む23車種だった投入計画は19車種のEVを含む27車種に増やした。

 電動化を加速させる日産だが、対応すべき課題は多い。電動化の進展スピードやEVとe-POWER車のバランスは地域ごとにばらばらという難しい条件のなかで、電動車両のラインアップを拡充させなければならない。

 「投資をスマートに再配分する」――。グプタ氏がこう語るように、資金や人的リソースに限りのある日産は、より一層の選択と集中を進める。Nissan Ambition 2030で掲げた「利益ある成長」を達成するため、(1)部品の共通化、(2)EVのプラットフォーム(PF)や車種バリエーションの削減、(3)コア技術の手の内化――という3つの重点テーマで取捨選択に着手した。